小学校英語活動コラム

 小学校外国語活動の成果について,前回(第28回)の小学校6年生ご担任の教員に続き,中学校英語の教員に意識調査しました(2012年3月,アンケートを実施)。その調査結果をご報告いたします。

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[第29回]外国語活動必修化の初年度を振り返る(2)―中学校英語教員の意識調査

渡邉時夫
(清泉女学院大学客員教授・信州大学名誉教授)

1.はじめに

 平成24年4月末に,1年間外国語活動を学んで入学した中学生を担当している英語教員に,従来の中学校1年生との違い等について意識調査を行いました。前回(第28回)の「小学校の外国語活動担当者による評価結果」と比較してご覧ください。

調査の対象: 長野県,岐阜県及び北海道の教員31名。
※抽出方法…英語の発音や聞き取りの学力について判断できる教員を対象としたいため,各地の大学教員から教員を推薦していただいた。
回収率  : 100%(31名中31名が回答)
調査方法 : アンケート。多肢選択と自由記述の質問に,郵送にて回答を依頼。
調査内容 :

【調査@】
下記各項目について,(a)〜(c) の中から1つを選択。

a 従前の生徒よりかなり良くなっている
b 多少良くなっている
c あまり変わっていない

(1)英語を聞いて理解する力について
(2)習った英語を使って話す力について
(3)英語の発音について
(4)積極的な態度について
(5)学力差について

【調査A】
自由記述により,下記の質問に答えていただきました。
(1) 中学校入学時における英語力の受け止めについて
(2) 外国語活動の成果を活かした,中学校の英語教育の改善点について

2.調査結果

調査@(英語を聞いて理解する力/習った英語を使って話す力/英語の発音について)
 英語の使用という点で,下記の3点に絞って検証しました。
  (1) 英語を聞いて理解する力について
  (2) 習った英語を使って話す力について
  (3) 英語の発音について
 結果は次のグラフです。

a 従前の生徒よりかなり良くなっている
b 多少良くなっている
c あまり変わっていない

(1) 英語を聞いて理解する力について
 英語を聞いて理解する力については,「a 従前の生徒よりかなり良くなっている」と評価した教員は40%近くに達し,「b 多少良くなっている」と評価した教員を含めると,「良くなっている」と評価した教員は90%を超えています。

(2) 習った英語を使って話す力について
 話す力については,従前の生徒よりも向上している傾向は明確ですが,「a 従前の生徒よりかなり良くなっている」と評価した教員は20%以下で,話す力を過大評価できないことを表しています。

(3) 英語の発音について
 英語らしい発音については,英語の使用という点の中で,最も厳しい評価が与えられています。

 しかし,小学校の外国語活動では,基本的な英語に慣れ親しむことが大きな目標となっているので,中学校教員の評価によると,この点について外国語活動はある程度目標を達成していると言っていいでしょう。

 一方で,外国語活動が週1時間であることや正確な発音の修得までは目標に含まれない点を考慮すると,(2)の話す力(発話力)や(3)の正しく発音する力については,この程度の結果は想定内と考えて良いと思います。むしろこのような素地力を修得して入学した生徒の英語使用力をいかにして飛躍的に向上させるか,中学校の英語教員に課せられた責任は重いと思います。

調査A(中学校入学時における英語力の受け止め/中学校の英語教育の改善について)

(1) 中学校入学時における英語力の受け止めについて
 中学校教員の受け止め方については,下記のように整理できると思います。

  • 従前の新入生と違い,聞く力がついている。つまり,単語を聞いて認識でき,先生の英語を聞いて,およその意味を推測することができる。
  • 入学時点で,かなりの単語を知っている。
  • アルファベットの大文字,小文字を認識したり書いたりできる。ただし,文字に接すると抵抗がある。フォニックスを活用すべきだ,と考える教員が多い。具体的な指導法は定着していない。
  • あいさつ程度の英語は発話できるが,一方で小学校で触れているはずの英語表現を,スムーズに表出できない。
  • 正確な発音ができるかというと,そうであるとは言えない。かなり雑である。
  • chants,songs,game-like teachingには高い興味を示す。
  • 小学校で既習の英語については,あまりくどく,繰り返していると,飽きるようである。中学生らしい新鮮さを早くから求めている様子がうかがえる。ただし,明らかに学力差があり,どの程度丁寧に復習すべきか,多少苦労している。

 総じて中学校の教員は,新入生の実態を的確に把握されていると思いました。従って,新入生の学力を過大評価されることはないと思いますが,学力の個人差や出身小学校の学校差などについては,十分意識された方が良いと思います。この点については,小学校教員の方がむしろ強く心配されているようです。

 中学校入学当初の有効な手法として外国語活動で頻繁に活用されているTPRを,少なくとも最初のうちは頻繁に使われることをお勧めします。これにより生徒は,中学校英語教育へ比較的スムーズに溶け込むことができるでしょう。一方で生徒はspoken Englishになじんでいることから,従来の生徒以上にwritten Englishに抵抗を示すようです。しかし,だからと言って,最初からフォニックスのルールなどについて強調しない方がよろしいと思います。フォニックスは,written Englishに慣れてきた頃を見計らって徐々に導入したらいかがでしょうか。

(2) 外国語活動の成果を活かした,中学校の英語教育の改善点について
 この質問については,次のようなお願いをしました。

 外国語活動が中学校の英語教育と(4月段階で)うまく接続されるだけでなく,外国語活動が導入された成果として,中学校の英語教育が従前よりも質的に高い水準を維持するためには,幾つかの点で従来の指導を変えなければならないと思います。どのような指導を心がけたら良いか。現実的で効果的な新しい指導の在り方を幾つか述べてください。できるだけ沢山お願いします。

 外国語活動の成果を活かし,今後の英語教育を改善については,下記の通り整理できると思います。

  • 小学校では,「英語に親しんだ」ことは事実だが,「英語の知識」が身についているわけではない。このことを理解し,英語教育の基礎から丁寧に指導したい。
  • 英語の音声面の基礎(個々の音やリズムなど)をしっかり教えたい。「音声」から書くことへとスムーズに進めるように,フォニックスの指導技術を磨くことを考えたい。
  • 英語の運用力を高めるには,今まで以上に読みの教材(中学生が興味のある題材と内容)を多量にインプットすることが必要である。
  • 従来は,1文程度の発話が中心で,しかも,与えられた文の単なる繰り返しが支配的だった。同じことをしていたのでは,英語教育に未来はない。

 外国語活動の成果を踏まえた中学校英語教育の方向性が具体的に提案されていると思います。この方向性につきましては筆者も全く同感です

 そこで,筆者は,次の a 〜 h の内容が重要になると思いました。今後は,このような発想を日常的な授業の場面でどう具体化させるかが,課題になっていると思います。

  • Listeningの素地がある程度築かれているので,まず教員が英語で話す機会を増やす。(教科書の内容を膨らましたり,教科書のテーマ,題材に関係した話題を自分の英語で話す。生徒に分かるように工夫して話す努力をする)
  • Interactionを重視した活動を意図的に増やす。Teacher – Students, Student– Studentなど。pair-workやgroup-work を今まで以上に。
  • Discourseの機会を増やす。妥当な場面設定をし,生徒が考えながら自分の言葉で相手とやり取りする学習場面を計画的に設定。
  • 今までは,比較的target sentencesを重視したシナリオによる対話活動,あるいは例文を基にした自己表現活動が多かった。今後は,文法的には不完全でも,メッセージを的確に伝える力を伸ばす活動を増やしたい。まずは,教員が実践する。
  • 多様な場面設定をすることで,同じ表現を有効に使うコツを教えることができる。
  • 教科書の内容を発展させたり,視点を変えて書き直してみる作業がこれからの教員には求められている。
  • Bottom-upだけでなく,Top-down 的なアプローチを取り入れる。例えば,教員やCD,DVDなどの英語を聞いて,一語一句すべてを理解させようとせず,概要や要点を掴むことを狙いとするような活動を体系的に取り入れる。
  • 音声面だけでなく,Readingについても,未習の言語材料が多少混じったものも含め,学習中のテーマと関連したreading selectionを読ませる活動も増やしたい。学習中のテーマや題材と関連させて話した教師の簡単なスピーチをプリントアウトして読ませるなども効果的。ALTにも同様の実践をお願いするとよい。

3.おわりに

 今回の中学校教員の発想を次のように簡潔にまとめることができると思います。

教員自身が意味のあるmessageを英語で語り,書く機会を現在よりも格段に増やすことが,英語教育の質的向上にとって,必要条件である。

 英語教育の枠組みが変わるこのタイミングを逃したら,我が国の英語教育は永久に変わらないと思います。総力を挙げて,頑張りましょう。

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