フーンコラム98回(2014年1月号) 後関正明

「授業力」とは?(その1)

 今回は,先日ある研修会の懇親会で隣り合わせたB中学校C先生(新採4年目)との会話から始まった「授業力」について,お話したいと思います。

C先生: 最近英語だけでなく教育界全般にわたって「授業力の向上」とか「授業力の充実」など「授業力」についての話をよく聞きます。これは要するに「生徒中心の授業で,生徒がよくわかる授業をする力」のことだと思うのですが,どこか漠然としていてはっきりしません。毎日授業をしていますが,何が本当の「授業力」なのか,つかみきれていない感じがしています。「授業力」とは何かを把握し,それを毎日・毎時間の授業でどう具現化すればいいのか、模索しているところでして,何かヒントになるようなことを教えていただけませんか。
私: うーん,難しい問題ですね。私は「授業力」とは,ひと言で言ってしまえば,授業実践のための総合力ととらえています。
C先生: 授業の「総合力」といいますと?
私:

次の4つの要素が統合されることによって授業が成立すると私は考えています。
 @ 授業のための言語材料や題材についての必要な知識を余すところなく身に付けていること。
 A 一単位時間の授業のプロセス,つまり起承転結をきちんと計画すること。
 B 扱う言語材料や題材によって,授業の形態を随時,あるいは臨機応変に変えていくこと。

 C 授業が静謐であること。

C先生: 一つ一つ突き詰めて考えていくとずいぶん大変で,難しいですね。
私: そうですね。たしかに一単位時間の授業はさまざまな側面から見て構築されなければなりませんが,それを毎時間一つ一つ別個に意識することは困難です。いろいろな方法があると思いますが,例えば新しいレッスンに入るときに8〜10時間の単元計画を立てますが,その折に各パートについてもいろいろと構想を練るわけです。
C先生: どんなふうに練るのですか。
私:

かつての私の例でご説明しましょう。先程述べた順序でいきますと,@「授業のための言語材料や題材について」は,該当レッスンの言語材料いわゆる文法項目と,題材についての課題を改めて勉強します。いわゆる教材研究ですね。特に題材については,私にとって初見の題材であれば,教科書のTeacher's Manualを隅々まで熟読し,参考文献で調べます。幸いTeacher's Manualには参考文献の一覧も載っているので好都合です。さらに言語材料の中身やレッスン本文のスタイル(説明文か対話文)によって,4技能のうち,すべてを網羅するのか,どれに主眼を置くのか,またはどの技能とどの技能を統合するのかなどを考えます。

 次にA「一単位時間の授業のプロセス」では,各単位時間の簡略化した指導案を作成し,または頭の中でイメージし,導入,展開,まとめの内容を決めていきます。

  B「授業の形態」では本文が対話文(dialogue)ならペアワーク,グループワークなどを駆使し,4技能の内では「聞くこと」「話すこと」に重点を置いた授業にします。また,本文が説明文(narrative)ならば「読むこと」や内容によっては「書くこと」に力点が置かれることがあります。

 そしてC「静謐な授業」を目指すことも授業力の大切な要素です。50分の授業をきちんと掌握するということは生活指導的な側面から考えても授業の基本そのものといえるかもしれません。

C先生: でも毎時間そんなに練るのですか。
私: いいえ,毎時間ここまで練る必要はありません。先ほど述べたように,新しいレッスンの最初にきちんと計画立てをすればそれで十分です。
C先生: 具体的にレッスンに入るときの練り方はどんなでしょうか。例示してくださいますか。
私:

ではNEW CROWN BOOK 2のLesson 6 "Uluru"を例にとりましょう。その第1時間目とします。まず導入では,生徒の大半はウルルについては何も知らないと仮定し(実際は自分で予習をしたり,塾で先回りをしたりして多少知識を持って授業に臨む生徒もいますが),オーストラリアの「ウルル」について平易な英語で解説します。

  私は社会科の先生からオーストラリアの掛け地図を借りました。大きい地図は説明もしやすく,生徒の記憶にも残り,題材に関連した話題も広がり何かと役立ちます。導入の説明では,未習語がいくつか入っても構いません。文の前後関係からわかる場合もあるし,もしわからなければ易しく言い換えるとか,そこだけ日本語を使うとかでなんとか切り抜けられます。さて,こんな具合です。

 Now everyone! Let's go to Australia all together. Look at this map. This is Australia. Australia is a big country. This is the Australian continent. Continent is「大陸」in Japanese.

 この短い導入にAustralia が3度も出てくるので,どの生徒も,まずAustraliaの単語が頭に入ります。関連してAustralian, continentなどの未習語が出てきてもなんとなくわかってくるので,ここで大陸の話に脱線しても面白いのです。例えば,Australiaはbig countryなのにthe smallest continent in the worldだ,などと言って,オーストラリアから世界地図へ視点を広げさせることができます。この説明のあと,私は生徒とQ & A活動をしました。

  T:Do you know anything about Australia?
S1:Yes, I do. I know koala.
  T:Oh, you know koala. Koalas are very cute.
S2:I know kangaroo.
S3:Aborigine.
S4:Ayers Rock.
S5:大陸横断鉄道。
  T:Yes. Great Southern Rail.
S6:Great barrier reef.

 このようにして多少日本語も混ざったり,少々わいわいがやがやしたりしますが,対話により生徒の興味・関心も高まっていきます。いろいろな答えがでますが,ここでは文法にはこだわらない方がいいですね。さらに,このあと教科書を開かせ,写真を見せながらAyers Rockについての説明を一通りします。ここでは,Teacher's Manualのオーラルイントロダクションにある例文を参考にして使ってみましょう。

 This is a big rock. It is on a large, flat plain in Australia. Many people go there to see it. The rock has two names. One name is from the British: Ayers Rock. Ayers was the name of a British leader. Another name is Uluru. It means 'rock' in the language of Australian native people. Which name do you like?

 さらに,次のように生徒にQuestionを投げかけます。

Q1:Where is this rock?
Q2:Do you know the name of this rock?
Q3:Do you want to go to Australia to see this rock?

 そしていよいよ言語材料[SVOO]構文の導入です。コアラやカンガルーのぬいぐるみを使い,先生と生徒とのやりとりに移ります。(コアラとカンガルー以外のぬいぐるみは使いません。ここではあくまでもオーストラリアにこだわります。)

 こんな具合です。生徒一人S1を前にだして……。

 T:I have a little koala in my hand. Now I will give you this koala.

 と言ってS1にそのコアラを渡します。

S1: Thank you.
 T: You're welcome.

 次にもう一人生徒S2を前に出して同じパフォーマンスで……。

T: I have a little kangaroo in my hand. Now I will give you this kangaroo.
S2: Thank you very much.
 T: You're welcome.

 このSVOO構文を(機械的にはなりますが)まずクラス全員で何度もコーラス,そして列ごとに個々で言わせます。次に予め厚紙を切り抜いて作っておいたコアラとカンガルーを各ペアに配り,それぞれのペアが「TとS1」「TとS2」になってパフォーマンスを伴った文型練習をします。(役割は適宜交代します。)このパターンプラクティス的なパフォーマンスを繰り返してSVOO構文を身に付けておけばPart2に出てくるEmma gave me this present.の文も簡単に理解することができるでしょう。

 このあと,時間があればWord Cornerにある語句を使い,いろいろな動作を交えたペア活動やグループ活動ができます。いずれにしても生徒の発話にかける時間をできるだけ多くとって授業を活発化させ,生徒中心の授業を心がけることが大切です。

 以上が第一時間目の授業の骨子です。導入部は生徒の英語への関心と意欲を起こさせ,それを持続させるための大切な一時間です。生徒の気持ちが「そうか,これからしばらくはオーストラリアについて勉強するんだな」から「オーストラリアについてもっと勉強したくなった」へ変化し,そしてこの課の終わる頃には「オーストラリアに行ってみたくなった」となれば,授業は軌道に乗ったといえるでしょう。

 さて紙面が尽きたようなので,このあとの「展開(activity)」「まとめと振り返り」「自己評価」「宿題と小テスト」については次回に述べたいと思います。

印刷用ページを表示

後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜97回)

ご質問がございましたらニュークラウン指導相談ダイヤル(03-3230-9235 受付時間 月・火・木曜日 10:00 〜 16:00)へどうぞ。 メールの場合は「問い合わせフォーム」へ


1つ前のページへこのページのトップへ

 
英語教育インフォメーション
英語教育コラム
英語教育リレーコラム
フーンコラム

小学校英語活動コラム 英語教育関連書籍
三省堂辞典一覧:英語新しいウィンドウに表示
幼児・小学
教室・教師向け
研究会情報
小学校英語活動
中学校英語教科書 ニュークラウン
高等学校英語教科書