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フーンコラム94回(2013年7月号) 後関正明

New Lesson の導入について

 都内C中学校,D先生からのご質問です。
 新しいレッスンに入る際の導入の仕方について,下記のようなお便りをいただきました。

「導入はいつも教科書準拠(指導用)教材のピクチャーカードや自前のイラストまたは写真などを利用して,ほとんど英語で説明しています。いわゆる英語によるオーラル・イントロダクションですが,もちろん生徒の理解の状況に応じて日本語を使うときもあります。生徒は私の英語の導入に慣れてきて,大体分かると言っています。それは嬉しいことなのですが,私としてはもっと面白い導入の仕方があるのではないかと思っています。そこで何かもっと生徒の興味を引くアイデアなどありましたら教えてください。」

 D先生の導入方法は,自然で分かりやすい方法だと思います。100%英語での導入を行う方法もありますが,生徒の実態によっては難しい場合があります。ですからD先生のように日本語をところどころ交えて導入すると,生徒はある程度「聞き取り」の緊張感から解放され,安心して先生の導入を聞き取ることができるわけです。この精神的なストレスを感じずに安心して聞くことは理解の第一歩につながるはずです。この考え方をベースにして,少しでも生徒の興味や関心を引き出し,それを持続させるための方法を考えてみましょう。

 私の経験では,当該レッスンの題材に関係する資料を集め,導入時にそれらを教科書準拠(指導用)教材と一緒に使うことが最も効果的でした。例えば,絵や写真,可能であれば実物やレプリカなども持ち込んだり,音楽に関することであればCDやVTRを使ったり,生徒の目と耳をフル活用させるのです。

 授業の導入とは,おおよそ5〜8時間かかる1レッスンの最初の時間ですから,生徒の意欲を引き出し,集中して取り組ませるために不可欠な要素であり,大切な十数分となります。先生の導入を見たり聞いたりして,生徒が「これは面白そうだ」「ためになりそうだ」と実感すればしめたものです。生徒の知的好奇心をさらに刺激し,より満足させるために,先生のユーモアが混じればまさに「鬼に金棒」ですね。それが習慣になってきますとあとに続くパートの導入もスムーズにいくでしょう。

 NEW CROWNのテキストから実際の例をいくつかあげてみましょう。

 BOOK 3 LESSON 4 “The Story of Sadako”の導入では,折り紙で鶴を折ります。折り方を知らない生徒も意外といますので,ここでは英語を使って折り方の指導もします。さらに,「鶴は何を意味するのか」,「どうして病気の人に千羽鶴を送るのか」などを平易な英語で説明します。もちろん生徒が理解し難そうな表情を浮かべたりした場合には,適宜日本語も使って説明を補足しますが,実際に動作を交えながらの英語は理解しやすいので生徒は乗ってくるでしょう。最後には,物語に感動した生徒は「鶴を千羽折ってみよう」などと言い出すかもしれません。こういう動機付けが英語学習の「はずみ」になるのだと思います。

 次に,同じくNEW CROWNBOOK 3 LESSON 3 “Rakugo Goes Overseas”では,まず先生が小咄を英語で一席披露されてはいかがでしょう。分かっても分からなくても生徒は喜びます。私は,教卓に上り正座して小咄を一席ぶったことがあります。次のような1分とかからない短いものです。

Gen: Hey, Toku!
Toku: Hey, Gen.
Gen: How is the bookshelf I built for you the other day?
Toku: Oh, it’s broken already. It was no good.
Gen: What? Why? You didn’t put anything on it, did you?

源:徳さん,どうも!
徳:ああ,源さん。
源:この間作ってあげた本棚どうだい?
徳:あ,あれはもう壊れちゃったよ。あれはよくなかったね。
源:何だって? どうして? まさか何か上に置いたんじゃないだろうね?

『やってみよう! 教室で英語落語』大島希巳江 著(三省堂)より

 まず一度,英語で小咄を話してから未習単語であるbookshelfとbrokenを説明します。次に,もう一度小咄を話します。これで分かればしめたものですが,そううまくはいきません。そこで日本語で助けを出します。そして棚は物をのせるものだという常識を理解しないボケ役の源さん(あまり腕のよくない大工)のせりふが面白いと分かれば充分でしょう。まだまだ探せば短い小咄はたくさんありますので,あとは先生方にお任せします。

 またBOOK 2には,ハワイ(LESSON 1),オーストラリア(LESSON 6),インド(LESSON 8),カンボジア(LET’S READ 2)などの国や地域が出てきます。そこで,もし先生方が実際に旅行されたことのある国ならば,そのときの写真や絵,またはビデオなどを導入に使うと生徒は大いに喜びます。生徒は身近な先生が写っている写真などに興味や親近感を覚えるものです。

 CDなどによる導入の場合には,聞き手である生徒は,話し手の顔や表情が見えないので内容を理解するのがより難しくなることもあります。しかし,先に述べたようなオーラル・イントロダクションでは,生徒は先生の表情やジェスチャーを見ながら英語を聞くことができるのでヒントを得られます。また,先生も生徒の表情を見ながら導入を進めることができるので,状況に応じて繰り返し説明したり,言い換えたり,ゆっくり話したり,その活動を自在に扱うことができます。特に1年生の場合は本文の英文が少ないので,平易な単語や文を使って言い換えながら全体を導入することができます。一方,題材によって説明要素が多くなったり,難しくなったりする場合には,すべてを導入するのではなく,中心となる部分を概略的に導入し,残った部分は後のreading活動で扱うなどの調整も効果的です。

 一般にNew Lessonの導入は,生徒がそのレッスンに興味・関心を寄せ,それを持続するための「はずみ」をつける指導ですからオーラルに限らずいろいろな方法が考えられます。レッスンの題材内容に関する教科書準拠の「学習ガイド」のようなプリントを用意し,グループで話し合わせることも一つの方法です。「始めからは無理ですよ」という声が聞こえてきそうですが,のちにレッスンを学習していく大きなモチベーションにはなります。他にも題材に関係した英語の歌,英語の諺なども導入に向いているので試していただきたいと思います。

 D先生,参考になりましたでしょうか。これからも頑張ってください。


後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

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