『小学生の国語』基本情報 編集委員からのメッセージ

子どもと本のすてきな出会い

あまんきみこ 写真
撮影:塩澤秀樹
あまんきみこ 児童文学者

子どものころから,本はいつもそばにありました。宮沢賢治は大好きな世界でしたし,学校の先生には,山本有三や坪田譲治先生の本など,ずいぶん読んでいただきました。

敗戦で治安が悪くなって家にこもっていた時期があったのです。どこにも行けず,『アンネの日記』のような状態でした。本を読むか何か書くかしかなくて,家にある本を片っ端から読んだり,新聞みたいなものをつくってそこに童話みたいなものを書いたりして過ごしました。

そのころ,物置になぜか謡曲の本がたくさん積んでありました。それまでは子ども心に触ってはいけないものだと思っていましたが,母からおゆるしが出て読んだのです。難しくて,でも,目で字を追っているだけではわからなくても,声に出して読むとその世界が浮かび上がってきて,わかることに気がついたのです。ダンテの『神曲』もそんなふうにして当時読みました。これは貴重な経験でした。

子どものころに,大人から話を聞かせてもらって楽しかった想い出がわたしにあったものですから,子育て中に,わたしも子どもにしてやる話をノートに書き留めていました。それから一歩ずつ,書く世界に入っていきました。少しずつ少しずつ出会いが広がって,自然に童話作家になっていたという感じです。

わたしは完成までにとても時間がかかるんです。作品というラブレターは,一作しか書けないでしょう。だからおかしいくらいに書いたり消したり書いたり消したりするのです。そうやって書きながら発見していく,書くことで自分を見つけている,そんな気がしますね。(談)