フーンコラム 第48回 後関正明

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第48回 新採用3年目教師の悩みを聞いてください その2

 前回,新採用3年目のY先生が生徒指導のことで悩んでおられ,「やる気のない生徒の指導」についてお話しました。今回もそのY先生からお手紙でご質問をいただきました。 (※前回のフーンコラム47「新採用3年目教師の悩みを聞いてください」)

質問の要旨は次のようなことでした。

  1. よく言われる『教科書「を」教えるのではなく教科書「で」教える』とは,具体的にどういうことでしょうか。
     
  2. 教科書はその年度中に終えなければいけないものでしょうか。

 まず,『教科書「で」教える』ことの中味を考えてみましょう。『教科書「で」教える』とは,具体的には,『教科書で「何を」教えるか』ということです。そこで,「何を」の内容が問題になってくるわけです。大上段に構えて話しますと,私どもは生徒たちの「生きる力」を育て,「将来,国際社会に生きる日本人として世界の人々と協調し,国際交流などを積極的に行っていけるような資質・能力」の基礎を身につけさせることが必要なのです。このことから,英語の授業では「実践的コミュニケーション能力」の基礎・基本をきちんと身につけさせることが,どの生徒にとっても必要になってくるわけです。

 では,次に,「実践的コミュニケーション能力」の基礎・基本の指導を,授業でどう具体化するかが問題になってきます。「実践的コミュニケーション能力」というと,まず第一に思い浮かぶのが「音声によるコミュニケーション能力」です。つまり,「聞くこと」「話すこと」の能力ですね。しかし,これらだけを育成するのでは,もちろん不十分です。「読むこと」「書くこと」における「実践的コミュニケーション能力」の育成もしなくてはなりません。したがって,「聞く」「話す」「読む」「書く」の各領域の基本を,教科書の本文や練習問題などを駆使しながら教え込むわけです。そのためには,教材内容を十分に研究し,目の前にいる生徒に合った提示を心がけなければなりません。そこに,先生ご自身の英語教育に対する考えが反映されていくわけです。例えば,ある課における目標は何か,それらを達成するために,(副教材やプリント類もうまく使いながら)どこを深化させるか,逆にどの部分をさっと軽く流すかなど,学校や生徒の実態を考慮して,できれば生徒の生活に密着したものと関連づけて指導することが効果的でしょう。

 実はこんな例が2年ほど前にありました。JR山陰線に有名な「余部(あまるべ)鉄橋」があります。高さが日本一で地上から41メートルもあります。この鉄橋の近くの中学校の先生から“It ... (for + 人) + to + 動詞の原形”についての質問を受けたとき,私は説明の最後にその鉄橋についての例文をあげました。

 It is very dangerous for you to walk across Amarube Railroad Bridge.
 「余部(あまるべ)鉄橋を歩いて渡ることはとても危険だ」

 NEW CROWN 3年LESSON 4 Section @にある“It ... (for + 人) + to + 動詞の原形”を教えるときに,教科書のポイント文である“It is important for you to read books every day.”よりも,生徒に身近な鉄橋を例にとった方が覚えるのも早いし,大切な構文が将来的にしっかり記憶に残ると思われます。このように,先生が周りの環境を生かして自作した例文を使うことによって,生徒が自分たちの生活環境を大事にすることにもつながると思いますし,そういう指導が『教科書「で」教える』ことの基本のひとつになると思います。要するに,教科書という「玉手箱」から先生が個性を生かして何を引き出し,生徒の興味・関心をどう引きつけ持続させるかが,『教科書「で」教える』ことの根本的な考え方になるでしょう。

 次に,「教科書はその年度中に終えなければならないのか」というご質問ですが,結論から言うと,「終えた方がよい」ということになります。教科書を1冊,終えたことで,生徒自身の達成感が得られ,それが自信にもつながるからです。学年末になって急いで上滑りになるよりは,学年が新しくなった4月当初に積み残しをきちんと教えた方が生徒のためになることもあるかもしれませんが,先ほど言ったことからも,なるべくなら年度内に終わらせたいものです。そのためには,まず,年度当初に教科書の内容と学校暦などを見比べ,授業の年間計画を作成することをおすすめします。私は新教科書をひと通り読み,言語材料・題材などを考慮しながら,学校暦や学年行事とにらみ合わせ,学期ごとの計画と月間計画を細かく立てました。その際に注意したことは,1月中か2月中旬までに教科書を終えるように区分したことです。3月になると,学年末考査やら学年行事やらで授業時間がなかなか確保できないからです。実際に授業が始まってみるとなかなか当初の計画通りにはいかないものですが,生徒の理解の程度などの実態を注視し,月ごと,学期ごとに進度を見直しながら授業を進めてみて下さい。

 

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜47回)

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