フーンコラム 第62回 後関正明

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第62回 音読の手順

 

  先月,研究授業をされたN区Y中のI先生に,授業について小生よりコメントを差し上げました。それについての返信の中でI先生が「音読の手順」についての考えを論文(報告書)のようにまとめておられる箇所がありました。それをちょっとご一読ください。

「音読の手順」
 導入直後の音読の目的は「文字と音を一致させること」である。そのために,コーラル・リーディングを丁寧に行い,時々生徒個人にあてて,確認したりする必要がある。ここでの音読の目的を「暗唱」や「表現音読」にするのであれば,ペア・リーディングで,なるべく教科書を見ないで言うという活動を入れてもよいだろう。そのためにはコーラル・リーディングを丁寧にやり,十分な練習を積んだあと,リード・アンド・ルックアップなどでスピーキングへの橋渡しを行い,暗唱に近い(または暗唱の)活動にもっていくことが望ましい。ただし,導入直後の音読でここまでもっていくためにはかなりの時間を音読に割く必要がある。

  一読して「音読の手順」の考え方としてはたいへん素晴らしく,理にかなったものだと思いました。しかしながら,音読のさせ方ひとつとっても,各先生によって音読の手順や音読をさせる時間は異なり,I先生はご自分の手順や音読に割く時間が適切かどうかについて悩んでおられたのです。今回はその悩みに対する私なりの考えをご紹介します。

<<アドバイス>>
 先生!「音読の手順」を拝読しました。音読については,先輩の先生方を含め,他の先生方にもそれぞれ考えがあり,皆「これでいいのだ!」という信念をもって日々の実践をされているのだと思います。先生もそのうちの一人ですから,なんら臆することなくご自身の実践に自信をもって授業を進めていけばよいのです。他を省みないと独りよがりになるという恐れはあるにしても,先生の授業の評価は,見たところ,生徒たちがきちんとしてくれているようですから,そのような(独善的になる)心配はいりません。

 ところで,私は今,中学校の英語授業でいちばん不足しているものは何かと問われれば,それはリーディングだと答えます(本コラム第43回〜45回でも扱っております)。2008年の3月に学習指導要領が改訂され,リーディングやライティングもそれぞれ4領域のひとつとして力を入れるように方向づけられました。裏を返せば,これまでは「実践的コミュニケーション能力の育成」を目玉にして「聞くこと」や「話すこと」に重点が置かれ,リーディングやライティングがおろそかにされてきたともいえます。

 国語の授業にしても「読む」活動は他のすべての活動の基礎になるものです。国語の教科書が読めて大意が取れ,さらに朗読ができれば,「聞く」「話す」「書く」能力がついてくると言われております。英語と日本語の差はあっても,「言葉」を教える教科として,英語の学びの基本も同じです。「読む」活動と一口では言っても,黙読,音読ともに工夫が必要です。黙読,音読ともに重要ですが,今回は音読の話にしぼりましょう。

 音読は,一斉授業で行う授業形態に合っています。先生も「コーラル・リーディングを丁寧に行い,時々生徒個人にあてて確認したりする必要がある」と述べておられます。ここがポイントですね。現在,このように音読指導を「丁寧に行う」ことが欠けている授業の何と多いことか。「他にやることがいっぱいある!」という声が聞こえてきますが,「いっぱいある」を精選して音読指導にまわしてみたらどうでしょうね。

 私は,音読を徹底的に行いました。NEW CROWN 3 Lesson 8 Section 2を例にとると,I’m studying sign language.から始まり,終わりの文,From this, I learned that facial expressions and gestures are important for communication.まで9文ありますが,キーセンテンスのFor example, my teacher taught me how to sign the word ‘happy’.も含めて,40人学級だとしても一人が3〜4文を読む機会を与えます。その間,私が文の意味内容の説明を日本語で行います。日本語による説明はできるだけ簡単にし,課の終わりに全訳を生徒に渡します。ですから,私の日本語の内容説明に要する時間よりも,生徒たちの「読み」の時間の方が圧倒的に多いわけです。およそこれに30分かけることになります。これだけ徹底して「読み」をすると,読んでいる生徒以外の生徒たちは「聞く」ことに徹します。また,進んでいる生徒たちにはdictation活動をさせることもできます。

 1時間の中で4領域のすべてに焦点をあてることはとうてい無理な話です。だからこそ,時にはあえて1領域にしぼって徹底的に追求してみると,授業に「めりはり」がついてきます。上記はひとつの例にすぎませんが,言語材料や題材を吟味し,ここぞというセクションでは,思い切って音読に集中的に時間を割いてみることもよいのではないでしょうか。きっとI先生もそのような方針で音読活動に取り組まれているのですよね。

 少し急いだ感があり説明が雑ぱくになりました。何なりとご質問,またはご意見をお寄せくだされば幸いです。寒くなりましたが,先生の持ち前の明るさとエネルギーで子どもたちをぐいぐい引っぱっていってください。

 このアドバイスが,I先生をはじめ,音読活動に取り組む全国の先生方の参考になれば幸いです。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

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