フーンコラム70回(2009年8月号) 後関正明

「素地」って何?

 

新年のある日,フーンコラム第71回をご覧になったW先生からお電話をいただきました。

W先生: 明けましておめでとうございます。今年もよろしくご指導ください。
私 : おめでとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。
W先生: 早速ですが,昨秋に小学校外国語活動を体験してきた新入生の生徒たちをどのように指導していったらいいかについてのコラムを読みました。
私 : 結論としては,近隣の小学校の先生方と定期的な交流会を持って話し合うことが大切だと言いました。
W先生:

はい。そして,お互いの立場を理解することが,小学校外国語活動と中学校英語を結ぶブリッジになると教えていただきました。

私 : 先生の学校と小学校の交流会は持てましたか。
W先生: はい。3回持ちました。まだ,何となくしっくりこない部分もあるので,年度末までに,1回は授業を参観させていただく約束をしてあります。そこで,今回は,小学校外国語活動に関連して,新『学習指導要領』に理解しにくいことばがあるので,質問させてください。
私 :

それは何ですか。

W先生: 新『学習指導要領』では,小学校の外国語活動において「素地を養う」とありますね。その「素地」とは,具体的にどんなことを指しているのですか。中学校では「基礎を養う」とありますね。その「素地」と「基礎」はどう違うのですか。同じものと考えていいですか。
私 : そこがちょっと違うのです。まったく同じならば,小学校の新『学習指導要領』でも「素地」とは言わずに,「基礎」と言うはずですね。そう言わないのは,中学校の新『学習指導要領』の目標の中で「英語に慣れ親しむ」という部分がなくなっていることと関連があるのです。つまり,削除された部分は,「小学校で育成されるべきもの」と解釈できるわけです。ですから,中学校の新『学習指導要領』の中に「小学校における外国語活動を通じて音声面を中心としたコミュニケーションに対する積極的な態度などの一定の素地が育成されることを踏まえ…」と明記されているのです。すなわち,「素地」というのは,「音声に慣れ親しむこと」や「コミュニケーションに積極的に興味を持って加わること」と理解していいわけです。
W先生: なるほど,理屈はよく分かりましたが,では「素地を養う」には,具体的にどのようなことをするのでしょうか。
私 : 小学校外国語活動では,音声指導として,英語の歌を歌ったり,Classroom Englishのごく易しいものを何度も使いながら活動を進めたりしているようです。これらは,中学校でも従来から行われてきたことですね。これらの過程で英語のリズムやストレス,イントネーションなど,ごく初歩的なものを身につけさせるわけです。ですから,発音指導といってもrとlの区別や,thやfの音などを,あえて強調して教える必要はありません。
W先生: 確かに,それは中学校へ来てから教えても遅くはないですね。
私 : はい。日本語にはない,英語に独特な音声があるということに気づかせるのは結構ですが,無理をして教え込もうとすると,英語に慣れ親しむどころか,逆に英語嫌いを増やすことになります。
W先生: なるほど。ほかにはどんな授業が行われていますか。
私 : 例えば,「外国へ行ってみよう」というテーマの授業を見たことがあります。それぞれ,好きな国へ行って入国手続きを英語で行う授業です。実際に,最終の入国手続きができるようになるまでに,7時間ほどの授業が行われています。例えば,「あなたの名前は何ですか」という質問で「名前の言い方」を覚え,「あなたの誕生日はいつですか」という質問で「月の名前や日付の言い方」を覚え,「あなたの仕事は何ですか」という質問で「いろいろな職業の単語」を覚えています。また,「あなたの住んでいるところはどこですか」という質問で「住所の言い方」なども,十分に時間をかけて指導しています。
W先生: ずいぶん丁寧に時間をかけて指導されているのですね。
私 : 本当ですね。そういった外国語活動の中では,小学校の児童たちは,「英語が楽しい。中学校へ行ったら,もっと英語を勉強したい」という,内発的な学びのエネルギーが高まっていきます。これも一定の「素地」と言えるのです。「英語は何を言っているのか分からない」という児童がいたら,「何とか一部でも分かろうとする積極的な態度」を身につけるように指導し,児童がそのような態度を身につければ,それも,「素地」になりますね。そして,ジェスチャーなどを使いながらでも,意思伝達を図り,コミュニケーションが成立すれば,立派なものです。
W先生: 「素地」について,よく分かりました。これからも,さらに小学校との交流を密にして,理解を深め,日本の英語教育の礎を築いていきたいです。
私 : そういう考えを根底に持って,これからの英語教育界を担っていってください。がんばってください。応援しています。

 

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

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