フーンコラム75回(2010年5月号) 後関正明

成績が中位の生徒の指導はどうしていますか

先日,ある研修会の帰途,3人の先生方とコーヒーを飲みながら雑談した折,「英語の成績が中位の生徒たちへの配慮はどうしていますか」とお聞きしました。3人とも顔を見合わせ,「さあ」と言い,中位の生徒には,特に配慮はしていないようでした。「改めてそう問われてみると,何もしていませんね。」「下位の生徒たちへの配慮はいつも考えて実行していますし,上位の生徒たちへも,時折それなりの指導をしていますが,考えてみると,中位の生徒たちへの意識が欠けていましたね。」などと口々に言っていました。多くの先生方にとって,中位の生徒個々への配慮は,意外な盲点となっていたようです。それから,私は先生方とあらまし次のような問答をしました。

 皆さんが通知表をつけるときのことを想像してみてください。中位の生徒たちが,いちばん多いのではないでしょうか。多い層の生徒についても,個人個人を見て,どのように指導していくかを考えることは,課題の1つと言えます。
A先生  確かにそうですね。今まで,いわゆる「落ちこぼれ」がないようにと,その点ばかりに重点を置いて指導をしてきました。その甲斐があって,一生懸命頑張って成績が向上してきたケースもあります。中位の生徒に関しては,特に念頭に置いて指導をしていませんでした。何かすべきでしょうね。
B先生  私も全員に個別指導をしていますが,中位の生徒を意識して指導はしていません。配慮して指導すべきですね。
C先生

 僕は,どの位置にいても,意欲をもって努力する生徒には徹底的に教えますが,実は,中位の成績でありながら,意欲のわかない生徒に手を焼いているのです。

 一般的に,授業の難易度の基準は,中位の生徒を想定して行うものだと言われています。ですから,授業全般を考える上では,(無意識にでも)中位の生徒を想定していることでしょう。しかしながら,個々の生徒のことを思い浮かべてみたときに,やはり,中位以上の生徒は,「何とか自分でできるから」と放りっぱなしにしてはいないでしょうか。

 一口に中位の生徒とは言っても,個々に違いがあります。本当に努力を重ねて頑張って中位にいる生徒,ほどほどに勉強し,それ以上は向上しようとしない生徒,さらには,まったく勉強しないが,中位にいるのでそれに甘んじている生徒など,様々です。自分で出来る生徒と言えど,放っておくと,生徒はだんだん怠け癖がついてきて勉強しなくなり,成績が落ちることになるとも限りません。逆に,指導の仕方次第では,中位の生徒も向上します。つまり,さらに能力が伸びる「伸びしろ」をもっているのです。ですから,中位の生徒に対する指導のあり方についても,個別的に,もう1度,考えなければならないと思います。

B先生  そうですね。では,そのような生徒の能力を伸ばすには,どのような指導が必要になってくるでしょうか。

 指導のポイントの1つは「動機づけ」だと思います。動機づけのあり方は,個々の生徒によって異なります。いくら一様に説明をしても,それだけでは,生徒はなかなかその気にはなってくれません。そこで,生徒個々に動機をもってもらうことが大切になります。ただし,個々の生徒に動機を与えるために,全ての指導をそれぞれの生徒ごとにしなければならないというわけではありません。例えば,動機づけのために,似た能力の生徒同士でペアやグループをつくり,「授業中の態度」,「ノートのとり方」,「宿題など,家庭学習の仕方」,「定期試験の準備の仕方」の観点(実は,これらがまったくと言っていいほどできていません)から,お互いに切磋琢磨するような意欲を植えつけてみてはいかがでしょうか。普段は仲良しの間柄ですが,意外にライバル意識が芽生えてきます。これがペア指導,グループ指導のよい点の1つです。個人指導では,他人が入らず,自分だけに指導されているので,100%わかった気になるのですが,何となくしまらないというか,意識して聞いていないときもあるのですね。しかしながら,ペア指導やグループ指導がうまくいくと,(先生以外の)他人の目線もうまく生きて,集中するようになります。その点で,効果的です。

 ほかの方法としては,少し成績が伸びてきたら褒めて英語係にしたり,授業のアシスタントとして仕事をさせたりすると,さらに頑張る生徒もいるでしょう。テストの答案に,なるべく詳しいコメントを書き,激励することも効果的です。私もずいぶんコメントを書きました。確かに,これはハードワークですが,百の説教より効き目があります。答案は,個々の生徒の学習法の弱点などもわかったりします。そこを突いて指導をすると,生徒は「ああ,そうか」と納得し,次への指針にもなるわけです。

B先生  でも,そんなに理想通りにいくでしょうか。いけばいいのですが…。
 理想通りいくかいかないかは,やってみないとわかりません。少し目先を変える意味でも,生徒の実態に即して工夫を凝らし,実行してみてはいかがでしょうか。機会を見つけて,また私の実践についてもお話ししてみましょう。

印刷用ページを表示

後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜74回)

ご質問がございましたらニュークラウン指導相談ダイヤル(03-3230-9235 受付時間 月・火・木曜日 10:00 〜 16:00)へどうぞ。 メールの場合は「問い合わせフォーム」へ


1つ前のページへこのページのトップへ

 
英語教育インフォメーション
英語教育コラム
英語教育リレーコラム
フーンコラム

小学校英語活動コラム 英語教育関連書籍
三省堂辞典一覧:英語新しいウィンドウに表示
幼児・小学
教室・教師向け
研究会情報
小学校英語活動
中学校英語教科書 ニュークラウン
高等学校英語教科書