フーンコラム86回(2012年3月号) 後関正明

中学校・新学習指導要領全面実施元年を迎えて (その1)

 あと1週間足らずで4月の新学期ですね。いよいよ新しい学習指導要領による中学校の教育活動が始まります。いつもの年度始めとは違って先生方は少しばかり緊張しておられることと思います。特に英語科の先生方は教科書の外観・内容とも全面的に新しくなり,授業時数も増え,何かと気がかりな点も多々おありだと想像いたします。

 今回は何人かの先生から新学習指導要領実施元年に当たってとりあえず何をしたらよいかなど,言わば心構えのようなご質問をいただきました。それにお答えしながら少々私見を述べてみたいと思います。

 すでに先生方は旧学習指導要領と今回のそれとの違いについてはご存知だと思いますが,復習のために簡単に箇条書きにしてみます。

  1. 4技能を総合的に行う学習活動や言語活動を充実する。(従来は「聞く」「話す」に重点が置かれた)
  2. 文法の指導は言語活動と関連付けて指導する。(従来,文法事項はおおむね理解の段階にとどめる,としていたものがあった)
  3. 語彙は1200語程度を教える。(従来は900語程度だった)
  4. 題材に伝統文化や自然科学に関するものを含める。(従来よりも内容が豊富になり充実した)
  5. 小学校外国語活動を前提として特に第一学年の指導内容の改善が求められた。(従来の「英語に慣れ親しむ」という文言が小学校の学習指導要領に移った)
  6. 英語の授業時数が各学年週4時間になった。(従来は3時間)
  7. 中学校全教科の中で英語科の時数が最多になった。(従来は国語科が最多)

 さて新学期の4月を迎えて具体的にどうするかが課題ですが,それも一口ではすまないような多くの課題がありますね。そこでまずは新しい教科書を初めから終わりまでじっくり読み込んでいただきたいと思います。(もうすでに実行された方には失礼しました)

 ご承知のように教科書には新学習指導要領に基づいた指導事項がすべて網羅して編集されています。ですから極論すれば理屈上は学習指導要領についての知識がなくても一応学習指導要領に沿った指導はできるようになっています。しかし一層奥行きの深い授業を目指すならば(学習指導要領と関連させた)吟味は必要です。

 さて先ほどの箇条書きに沿って内容を具体化してみましょう。

  1.  「4技能を総合的に行う学習活動や言語活動を充実する」・・・従来「聞く」「話す」に重点が置かれた結果,「読む」「書く」に充てる指導と,特に英文の根幹をなす基礎的な文法の力をつける指導が多少手薄になり,読み書きを含む表現力が身につかないという結果を招いたわけです。これは週3時間体制では無理からぬことではありました。そこで週4時間にして余裕を持たせ「読む」「書く」活動も「聞く」「話す」活動と同じ比重で考え,4技能を総合的に行う活動を求めたわけです。

      しかし毎日,毎時間の実際の授業では4技能をすべて盛り込んだ授業は無理が生じ,中途半端な授業になりがちです。やはり該当する課の言語材料や題材に配慮して,4技能のうち何を重点化し,何を軽く扱うかが問題となります。例えば,ある課では題材から考慮して「読むこと」に徹しようと思えば徹底的に読ませて内容理解に結びつけるわけですから「聞く」「話す」「書く」は一応素通りします。でも「読む」が中心であっても他の領域がまるでゼロになることはないですね。音読している生徒がいればそれを聞いている生徒がいるわけだし,また内容について先生と生徒とのQ &Aでは話すことに集中するでしょうし,さらに自分が最も気に入ったパッセージを書く作業も考えられますね。ですから1技能だけに特化した授業はほとんどありません。従って授業の構築では言語材料や題材に応じて先生方の各領域への力の入れ具合が重要な要素になるわけです。
     
     
  2.  「文法の指導は言語活動と関連づけて指導する」・・・文法指導というとどうしても「文法のための文法」になりがちです。すなわち例えば「不定詞」を扱うとき,初めから不定詞についての説明をしてしまう傾向があります。しかし不定詞という文法用語を使わずに不定詞を含む英文を導入して意味内容を説明し,例文をいくつか覚えさせ,コミュニケーション活動を通じ生徒の身に付いたところで種明かし的に,「君たちが今,覚えた英文のこの部分を文法では不定詞というのです」と解説すれば,基本的にはこれが文法指導と言語活動の一体化と言えるのではないでしょうか。従っていきなり「不定詞とは [to+動詞の原形]である」などと言って公式のように板書するといった言わば演繹的方法よりも帰納的な説明の方が言語習得としては近道だし合理的だと思いますが,先生方はいかがお考えでしょうか。
     
  3.  「語彙は1200語程度を教える」・・・これは目標ですが,今後語彙指導にはいろいろと課題がありそうです。語彙の導入や提示は教科書にでてくる順序で教えるのが順当ですが,その中でも工夫をしてコミュニケーション活動で頻度の高い語彙を中心に教え込む,などの語彙選択が必要です。中には理解だけにとどめる語彙,表現活動に必要な語彙,特に自己表現で言いたいことや使いたい語彙が教科書中にないときの教師の手助けも必要でしょう。更に3年生には高校入試に出そうな語彙を選んで教え込むとか,またスポーツや職業などをまとめたワードバンク的な一覧表のようなものを生徒に持たせて自ら意欲的に学習し,1200語にこだわらず語彙を増やすことも大切な語彙指導の一環です。

 今回は紙面が尽きたので,これ以降は次回に回したいと思います。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

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