フーンコラム87回(2012年5月号) 後関正明

中学校・新学習指導要領全面実施元年を迎えて (その2)

 新学習指導要領に基づいた中学校教育が始まって2ヶ月が過ぎようとしています。英語の授業時間数も週4時間になり,今までとは異なった雰囲気の授業になったでしょうか。前回では,旧学習指導要領と新学習指導要領の相違点を7項目あげ,そのうちの3項目について,新年度からはどのように授業内容が変わるのか,また変えなくてはならないか等,具体的に述べました。今回と次号は残りの項目について述べたいと思います。

 さて4番めの項目は,「題材に伝統文化や自然科学に関するものが含まれること」でした。端的に言うと従来よりも内容を豊富にし,充実させるということです。例をNEW CROWN からとってみましょう。従来よりNEW CROWNは題材にはかなり力を入れており,その題材から生徒は「人間のあり方」「ことばの持つ力」「異文化」「日本の伝統文化」「地球をとりまく自然環境」等々について学んできました。

 今回の改訂でも,これらの題材を一層豊富に,生徒の知的好奇心を喚起し,ことばや文化への関心を高め,地球上の多様な社会に生きる人びとの存在を尊重する態度を育てようと意図しています。豊かな題材は生徒に大切なメッセージを伝え,それによって生徒が自ら考えたり判断したりしながら,今度は生徒自身の考えをメッセージとして表現する意欲を引き出します。

 ではNEW CROWN,BOOK 1の「人間が自然環境を守り,互いに協力して住みよい社会をつくる」というテーマで郊外学習が題材となっている LESSON 4のField Trip をとりあげ,具体的に何をどのように教えたらよいか考えてみましょう。

 健たちは校外学習で山に来ました。そこにはキャンプ場があり昼食を皆で作って食べるという楽しい一日の様子です。山といっても登山目的ではない「里山」であり,里山とは,集落の近くにあって,人びとの生活とかかわりの深い森林(山)のことです。(『新明解国語辞典 第7版』 三省堂 2011年)そこにはいろいろな生態系が存在し自然がとても豊かな地域となっています。教科書の里山にはキャンプ場があり,生徒が自然の中で一日を過ごし自然について体験的に学ぶ絶好の場所となっています。しかし今日本ではこの里山が急速に失われつつあるといわれています。ということは多くの生態系が織りなす自然環境が破壊されているということに他なりません。そこでまず先生ご自身がそんな背景的知識を持ってこの LESSONに臨むことが大切だと思います。

 Part 1では,健とエマがキャンプの食材をスーパーに買いにいくところから始まります。タマネギ,ニンジン,ジャガイモを買っていますが,そのほかにもいろいろと野菜や果物など(付録pp.141〜142のいろいろな単語)を追加し,語彙を増やすチャンスですね。ここで注目したいのはエマが shopping bag を持ってきたことです。ふつうスーパーなどではいわゆる「レジ袋」をくれますが,買い物袋を持参してレジ袋を少しでも減らそうというエマたちの考えがここに表れています。(最近のスーパーではレジ袋不要の場合は少し値引きするところがあるようです。)

  生徒との対話で,Do you have a shopping bag? Yes, I do. / No, I don’t. などから始めて,先生の small talk の中で,I go to a supermarket. I have a shopping bag. と言っても(goの初出はp.65ですが),教室の雰囲気から生徒はほぼ理解できると思います。さらに p.47 の Word Cornerのcolor を使って I have two brown shopping bags. などと発展させて言うこともできます。

 Part 2では,Bird-Watching をとりあげることができます。いろいろな種類の鳥たちが集まる場所はまだ自然がそのまま残されている場所です。鳥たちの食料が豊富で,安心して羽を休める場所が自然そのものなのです。 このようなことにさりげなく触れながら,How many birds do you see? を教えると生徒たちは興味と関心を寄せると思います。

 Part 3では,里山の自然環境を守る姿勢が貫かれています。たとえ近くに水道があったとしても,昼食に使った食器をそこで洗えば洗剤や油などの汚水が流れ出るわけですね。食器はきれいになっても周囲は汚れます。そこで Please use this paper. と久美が言って皆で食器類をティッシュペーパーなどでふき取るわけです。ふき取った紙は家に持ち帰ります。そうすると里山は全然汚れません。元の自然のままですね。

  こうして健,エマ,メイリン,ポール,久美たちは里山の自然環境を守っていこうとするわけです。このことに触れずに教科書のPractice や,練習問題などのWork Sheet だけを中心に名詞の複数形や数のたずね方,命令文などを教えると文法中心の授業になってしまいがちです。そのような授業は生徒には無味乾燥な授業と映るかもしれません。また授業の方法としてはこの課が一通り終わった後に時間をとってグループ別に環境問題について調べさせ発表させてもよいと思いますが,やはり各時間の中で少しずつ里山の自然に触れながら文構造を繰り返し教え込む方が効果的だと考えます。特に都会に住む生徒たちにとっては,里山そのものに対する知識が不足していると考えられますのでなおさらです。先生方はどうお考えでしょうか。

 次回は5項目の「異文化理解」にどう取り組むか,について述べてみたいと思います。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

フ〜ンコラムバックナンバー (第1回〜86回)

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