フーンコラム92回(2013年3月号) 後関正明

「4技能の統合」を活かせる指導方法について その1

 今回は都内A区,B先生からいただいた質問についてお答えしたいと思います。

質問:
平成24年度から始まった学習指導要領では「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を総合的に育成し,統合的に活用できるコミュニケーション能力を育成すること,また「文法」はコミュニケーションを支えるための基礎であることが強調されています。この基本方針において,「統合」ということ,すなわち「統合された言語活動」とはどんな活動なのか,具体的に例を挙げてご説明ください。

私の回答:

 まず「統合」の前に「総合」の文言があり関連してきますので,その意味からご説明したいと思います。ここでいう「総合」とは,4技能の指導がそのうちのどれかに偏るのではなく万遍なく,すなわちバランスをとって指導するということを意味しています。これに対して「統合」とは,4技能のそれぞれの指導内容を深めるために,二つ以上の技能を合わせて関連づけ,一つのまとまりのある技能とする(=統合する)わけです。こうすることによって「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能が相乗的にその機能を発揮し,生徒がそれらの技能を活用できるようになることをねらいとしています。

 それでは例を挙げてご説明します。

■「読む技能」と「書く技能」を統合した例。

The country I want to visit is Australia. There are a lot of things I want to do there.
First, I’m interested in the railways in Australia. I want to see the transcontinental trains running from the east coast to the west coast. I suppose it will be a long trip.
Second, I want to see Uluru, Ayers Rock. This is a very big rock. It’s about 350 meters high. It is very important place for the Aborigines.

 例えば,上記のような例文の指導案はどのようなものになるでしょうか。技能の統合を意識した授業にするとしたら,私はまず「読むこと」と「書くこと」を統合させた活動を主として授業を構成します。そして,まずは「読む活動」,「書く活動」の基本となる「文法」をしっかり教えます。

 指導過程のあらましとしては,平易な英語によるオーラルイントロダクションなどの導入から始めます。次にmodel readingといったいろいろな種類の「読む」活動を経てexplanation に入りますが,そこでは予め用意しておいたQ & A 活動をしながら更に内容理解に重点を置きます。そして文法的な要点の一つである接触節の指導では,The country I want to visit is Australia.の文でAustralia をChina, Korea, the UK, the USA, Brazil, South Africa,New York, Paris等と生徒が好きな国や場所を言わせながら接触節を理解させます。

 I want to see the transcontinental train running there.ではI saw the Narita Express train running fast over there. などと変化させ,パターンプラクティス的に後置修飾を指導し一人一人に言わせながら理解させます。その間「接触節」とか「後置修飾」などの文法用語は使わないことが鉄則です。

 「読み」と内容理解が一通り終わった後,「書く」活動に入ります。特に,何かを話したり書いたりする活動では,前提として生徒が興味と関心を寄せる話題でなければなりません。そうでないと話したり書いたりする意欲も気力もわきません。意欲がないのに「書け」と言われても何を書いたらいいのか分かりませんね。そこで「行ってみたい場所や国」を選ばせ,そこで何をしたいのか,何を見たいのかを書かせるわけです。

 この「理解から表現へ」の転換していく過程において,内容的なつながりばかりでなく,言語的なつながりについても,意識を向けることも重要になってきます。一つには,そこで使われている語句・表現などで自分が表現するときに使えそうなものを確認する作業が英語学習においては特に効果的です。例えば,The country I want to visit is Australia. / I'm interested in the railways in Australia.などの自分の思いを語る言い回しや,It's about 350 meters high. / It is very important place for the Aborigines.など,行きたいところについての情報を伝える言い回しは,いろいろな場面で応用できそうです。

 もう一つは,文章構成を分析する作業がありますが,このレッスンにおいては,@行きたいところはどこ,Aそこでやりたいことその1,Bそこでやりたいことその2,という構成要素を確認し,次にその項目にあてはめて「書く」という方向づけをします。

 それぞれの項目を自分のことにあてはめて考えることで,それぞれが書きたいものが浮かび上がってくるはずです。

 この活動は生徒の思考力,判断力,表現力を育成するのにも役立つはずです。もちろんその過程では教師の支援が必要であり,教科書の付録「単語の意味」や辞書をひかせて調べさせることも必要でしょう。そして50語〜70語ぐらいを使って作文させるのですが,文法的に間違った箇所があった場合,それが文章の主要な部分の決定的なミスなら教師が説明して訂正させる必要がありますが,意味がだいたい通る程度であれれば一応よしとしたほうがいいでしょう。せっかくできた作文を赤ペンであちこち訂正されると生徒はやる気をなくすものです。個々の生徒の実態にもよりますが訂正はせいぜい2,3箇所ぐらいにとどめておいた方が無難です。

 しかし中には50語の単語を使いこなして作文するなどできない生徒もいるかもしれません。その生徒には一つでも二つでもいいから英文を書いてみるようにと声掛けをする支援と指導が必要です。そしてできたら褒めてあげることが殊のほか大切です。

 次に少し時間はかかりますが,完成した作文を何人かに発表させると,聞いている生徒にとっては「聞く」活動になり,「読む」「書く」「聞く」の3技能が統合された言語活動になるわけです。

 このような統合された言語活動は題材や言語材料によって多彩なものになりえますが一つの授業をデザインし構築するとき,どの技能とどの技能をドッキングさせるかを考えることが必要となってきます。その過程を通じて教える先生の個性が発揮され,授業が更に充実したものになるはずです。生徒たちが「楽しくてよく分かる授業だった」と言ってくれたら,これに勝る喜びはないものです。

 次回は,「読む」ことと「話す」ことの言語活動の統合についてお話しようと思います。B先生がんばってください。

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後関 正明 (ごせき まさあき) 先生
東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より國學院大学で教職課程履修の学生を教えている。

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