小学校英語活動コラム

 新しい学習指導要領が公示され,平成23年度(2011年度)から完全実施されます(平成21年度から移行)。そして小学校では「外国語活動」が新設されました。「外国語活動」は教科ではありませんが,高学年で週1回の必修となります。

 「小学校英語活動」は,これまで全国多くの学校で主に「総合的な学習の時間」の枠の中で行われてきました。そして今では英語活動は小学校内の活動だけでなく,中学校との接続・連携という意味でも注目されるようになってきました。

 全国には「小学校英語活動」に関連して先導的に研究・実践されている小学校及び中学校の先生方も多いことから,本サイトでは,そのような実践家の先生方に,活動の望ましい方向,具体的な実践の試み,教員研修のありかた,小中英語教育の接続・連携などの「外国語活動」に関するテーマについて考えを述べていただき,その内容を紹介します。そして,英語教育でご活躍の渡邉時夫先生(清泉女学院大学)に毎回登場していただいて,まとめていただきます。

 また,本サイトをお読みになった先生方からご意見・ご感想を沢山いただけることを願っています。

小学校英語活動コラム バックナンバー >>

※このコラムについてのご意見・ご感想をお受けいたしております。
ご意見・ご感想フォーム >>

 第1回は,渡邉時夫先生に,今年の3月に告示された新しい『学習指導要領』について,分析していただきます。

[第1回]新しい『学習指導要領』について

渡邉時夫 (清泉女学院大学)

 ご存知のとおり,これまで英語活動は「総合的な学習の時間」の枠組みの中で,「国際理解教育の一環」として実施されてきました。しかし,小学校における英語活動は,「外国語活動」として新しい学習指導要領に登場することになりました。英語活動が小学校の高学年で必修となることが,ついに現実となったわけです。

 平成19年(2007年)11月7日に「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」(中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会)が公表され,平成20年(2008年)2月15日には文部科学省から「幼稚園,小学校,中学校の学習指導要領の改訂案」が発表されました。これらのプロセスを経て,平成20年(2008年)3月に新しい『学習指導要領』が告示され,「外国語活動」の内容が明確になりました。

 『学習指導要領』の第3 指導計画の作成と内容の取り扱い1(1) に,「外国語活動においては,英語を取り扱うことを原則とすること」と記述されていますので,本コラムでは今後,「外国語活動」については「英語活動」という表現を使うことにします。

I 英語活動必修化までの流れ

 まず,主として上記「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」をもとに,英語活動が必修となった理由について整理しておきましょう。

  1. 全国にある小学校およそ23,000校のうち,何らかの形で英語を実施している学校は95%内外にのぼる。
  2. 年間3〜70単位時間(6学年の年間平均実施授業数13.7単位時間)で,授業時数に大きなばらつきがある。
  3. 教育特区の数が急増している。
  4. グローバル化の急速な進展により,国際協力が求められる時代になった。
  5. 近隣諸国を始め東南アジアの国々やEU諸国など,国家戦略として小学校から英語を実施する国が急増している。

以上により, 日本の教育の機会均等が危うくなってきていると言えます。そして,国際競争も激しさを増してきていますので,日本人として英語のブラッシュアップが一層望まれてきています。

II 「英語活動」の課題

 必修化に際し,「英語活動」の内実については,その内容や指導方法にさまざまな課題があります。「審議のまとめ」から,これまでに出された意見をいくつか具体的に挙げてみましょう。

  1. 授業内容や程度が多様化し,学校間格差が無視できなくなっている。
  2. 挨拶,自己紹介,など現在の中学初期の内容は小学校に向いている。
  3. 中学校入学と同時に4技能を同時に学ぶのは生徒の負担が重く無理がある。
  4. 小学校の内にコミュニケーション力の素地を作ることの方が得策である。
  5. しかし,小学校では多くの表現を覚えたり,抽象的な文法説明は不向きである。
  6. 従って,中学校の英文法指導や英文の暗唱などの前倒しはしない。
  7. Skill 目的が主軸となるような指導方法は望ましくない。
  8. 異文化などを学ぶ中で英語に親しむような指導方法が望ましい。
  9. 英語によるコミュニケーションを体験的に学ばせ,英語への興味関心を高め,積極性を育てることが望ましい。
  10. 教育の機会均等や中学校との円滑な接続の観点から,共通に指導する内容を示す事が大切(『英語ノート』の作成と配布を予定) 。
  11. 指導形態としては,学級担任を中心に,ALTや英語の堪能な地域日本人とのT-Tを軸にすべきである。
  12. 今後は,小中教員が互いに授業を見合うなど緊密な連携をとることが期待される。

III 新しい『学習指導要領』

 では,今年3月に公示された新しい『学習指導要領』を実際に読んでみましょう。「第1 目標」には,次のように書かれています。

小学校の「外国語活動」の目標

中学校の「外国語(英語)科」の目標

外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながらコミュニケーション能力の素地を養う。

外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う。

注)下線を施したのは筆者

 ちなみに,中学校 外国語(英語)科の「第2 目標及び内容等」の2の(2)言語活動の取り扱いの イ (ア)第2学年における言語活動には,次のように記述されています。

『小学校における外国語活動を通じて音声面を中心としたコミュニケーションに対する積極的な態度などの一定の素地が育成されることを踏まえ,<以下省略>』

 小学校の部分には直接的な表現が見当たりませんが,上記中学校の説明から明らかなように,小学校における「英語活動」は,中学校においてコミュニケーション能力を育成するための素地をつくることが重要(目標)と考えられています。

 小学校で「英語活動」を担当する先生方にとって,これは大変,一大事です。どんな内容を,どの程度まで,どのように指導したら,この目標を達成することができるのでしょう。

 また,「skill 目的の指導法に偏るのではなく,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながらコミュニケーション能力の(素地)を養う」ためには,どのような授業の進め方をすべきなのでしょうか。これまでは,英語の歌を教えていただけ,という先生もいれば,ほとんど遊びに近いようなゲームを主として教えていた先生も多いかもしれません。

 当然のことながら,今後,中学校英語教育との接続の問題についても真剣に考えなければならないであろう。このことは,小学校の先生だけでは解決できない問題であり,これを機会に,中学校の先生の発想や,指導法も大きく改善されなければならない事を示しています。

 「小学校英語活動」に対する期待の中身は,小学校教員と中学校英語教員とではかなりの差が見られるかもしれません。

IV 実践上の課題

 以上,「外国語(英語)活動」の内容や導入の背景等について概観してきましたが,小学校で実際に英語活動を担当される教員にとっての課題を挙げてみると次のようなものになるのではないでしょうか。

  1. 現在「総合的な学習の時間」の枠組みで実施しているが,内容や指導方法を変える必要があるだろうか。特に,中学校との関わりについてはあまり考えた事が無かったが,今後どんなことをどの程度配慮する必要があるだろうか。
  2. ALTとのT-Tを指導形態の原則とすることになっているが,ALTの確保が難しい。どうしたらよいだろうか。
  3. Skillに偏った指導は望ましくない,ということは分かる。しかし,「国際理解やコミュニケーションを中心とした指導により英語コミュニケーション能力の素地を養う」とは,一体どのような指導の事をいうのか。見当がつかない。
  4. 「指導計画の作成と内容の取扱い」によると,「文字や単語の取扱いについては,児童の学習負担に配慮しつつ,音声によるコミュニケーションを補助するものとして用いること」となっている。6年生用の『英語ノート』は,最初の3 lessons は,文字の学習に焦点が当てられているし,CDの25%ほどが文字学習に当てられている。中学校の英語教員の中にはAlphabetや,中学校1年生用教科書の最初に登場する単語くらいは書けるように指導して欲しい,という要望を持つ者が少なくない。果たして,どの程度の文字学習を対象とすべきだろうか。
  5. 来年度中には『英語ノート』が対象生全員に配布される計画だという。しかし,学習指導要領には,「各学校においては,児童や地域の実態に応じて,学年ごとの目標を適切に定め,2学年間を通して外国語活動の目標の実現を図るようにすること」と記述されている。『英語ノート』は教科書ではないので使用する必要はない。しかし,全国の小学校で扱う「英語活動」の内容があまりにもバラツキが激しかった事が,必修化の理由にもなっていることを考えると,『英語ノート』をどう使うかについては慎重に考える必要があるかもしれない。
  6. 1つの中学校に複数の小学校の卒業生が入学するケースが非常に多い。そのような場合は勿論のこと,小学校卒業時における「素地」の程度をある程度そろえる必要がありはしないか。

  この「小学校英語コラム」では,こうした課題に焦点を当て,どのように取り組んでいったらよいか,1年にわたって取り上げてまいります。

 まず,第2回と第3回には,小学校で積極的な取り組みをしている先生方に,上記の点等について具体的なお考えをお聞きする予定です。

渡邊時夫 (わたなべ ときお)
清泉女学院大学教授。小学校英語教育学会顧問。韓国の小学校英語教育事情にも通じ,教材制作や研究開発校の指導,各種研修会での講師の経験も豊富。長野県小学生英語指導力検定協議会の立ち上げに尽力,小学校での英語指導者育成に情熱をそそいでいる。小学校英語のご意見番的存在。著書には,小学校英語活動用テキスト『KIDS CROWN』代表著者,小学校英語教材『FIRST CROWN』編集委員,中学校英語教科書『NEW CROWN』編集顧問。『英語が使える日本人の育成 MERRIER Approachのすすめ』(以上三省堂)、など多数。

印刷用ページを表示

このコラムへのご意見・ご感想をお待ちしております
メールでのお返事はいたしませんが,いただいたご意見・ご感想は,
お名前は出さず,次号以降のコラムに反映しお答えしていきます。
お名前 ご意見・ご感想(全角/必須)
お住まい
所属
(学校名など)
E-mail

※ご意見・ご感想のみのご記入で送信できます。
よろしければ,お名前,お住まい,所属,E-mailもご記入ください。


1つ前のページへこのページのトップへ

 
英語教育インフォメーション

英語教育コラム
英語教育リレーコラム
フーンコラム
小学校英語活動コラム

英語教育関連書籍
辞書・事典
幼児・小学
教室・教師向け

研究会情報
2009年 全国研究会カレンダー
2008年 全国研究会カレンダー
 


英語教科書・教材
小学校英語活動
中学校英語教科書 ニュークラウン
高等学校英語教科書

マルチメディア英語教材

「三省堂英語教科書・教材」サイト内検索 検索について

Copyright (c) 1999-2014 SANSEIDO Co.,Ltd. All rights reserved.