小学校英語活動コラム

 第2回は,長野県中条村立中条小学校教諭の西澤浩先生に,「外国語活動」の目標をテーマにし,目標,そして目標を達成させるための指導や体制について,先生のお考えをまとめていただきました。

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[第2回]外国語(英語)活動の目標について

西澤 浩 (長野県中条村立中条小学校教諭))

1.はじめに ―目標は何か

 子どもたちが,将来,外国語(決して英語だけでない)を学習として学び始めるとします。

 その言葉の学び方や外国語の面白さ,異なる言葉を使用する人々とのコミュニケーションで大切なマナー,思いやり,推測力,非言語によるジェスチャーなどを,心が純粋で柔軟性のある小学生のこの時期に,体験的に学ぶことはとても効果があると思われます。

 私は将来にわたって,子どもたちに「日本語以外の言葉で,外国の人と接したり,考えを共有したり,議論したり,お互いに知り合うことは楽しいことであり,また,外国語は誰でも学べば使えるようになること」という考えや積極的な態度を小さいうちに持たせたいのです。

 そうした長期的な目標に立てば,小学生段階では,話す面については,ごく簡単な日常会話的なものをこなせればよいと考えています。むしろ,top-down的に,(ALTを含め)先生の話す英語が分かる,といったlistening の力を伸ばすようにする。したがって,例えば,正しい発音を習得させようとするskill 重視の訓練は,原則として避けたほうがよいと考えています。Skillの指導はできるだけ抑えた形で指導すべきです。小学校から英語を導入する最も重要な狙いを,native-like Englishの習得に置いている人々も多いようですが,私は英語を国際補助語としてとらえています。Native-like English をbest と考える時代は終わりにしたいです。むしろ,日本人の英語を肯定的に考える方向に進みたいし,日本人が自分の英語に自信を持つことが日本の英語教育改革に最も求められている,と信じています。

2.指導体制の充実

 英語教育の専門家の中には,早期英語教育には賛成だが,発音指導をおまかせできる小学校教員が少ない現状では,小学校への英語の導入には反対だ,と公言している方がいますが,一般の学級担任の大多数は,英語を教えることなど予想だにしていなかった人たちですから,そういう専門家の不安は分かります。しかし,だからと言って,学級担任が教える力を修得する時まで,小学校への英語の導入を待つことには賛成できません。むしろ,今回の小学校外国語活動の必修化をきっかけに,現職教員に十分な研修の機会を与えたり,ALTや英語に堪能な日本人(特別非常勤講師)を大量に採用するなど,積極的な方向に進んで欲しいと思います。

3.学級担任の役割

 学級担任自身が真剣になって英語を学び,使おうとしている姿に接することで,子どもたちの学びの姿勢が大きく影響される,ということを訴えたいと思います。学級担任が英語を通してALTと心を通じ合っている様子に触れた子どもたちは,日本人の話す英語に自信を持ち,英語を使うことの楽しさを学び,そこからコミュニケーションへの積極的な態度が培われるのだと思います。コミュニケーションという言葉を聞いたとき,私ははじめて海外に行ったときのことをいくつか思い出します。まずはHello. というたったひとつの単語を言うときドキドキして口元がふるえたこと。逆に文法・発音は,それ程正確でなくとも,自分が言いたいことが相手に通じたときの喜び…などです。我々日本人は,頭ではわかっていても実際に外国人と英語でコミュニケーションする経験が無いために,自信がつかないという問題があるのではないでしょうか。この問題を克服するためにも小学校の英語活動の導入の意味は大きいと思います。

 新しい学習指導要領にも「授業の実施に当たっては,ネイティブ・スピーカーの活用に努めるとともに,地域の実態に応じて,外国語に堪能な地域の人々の協力を得るなど,指導体制を充実すること」と述べられていますが,ALTなどの協力が十分得られない場合は,CDやDVD,ビデオを積極的に活用するなどの工夫もできると思います。学級担任がALTに頼り過ぎないことが,英語活動の質的な向上にとって大切な要因になるという面も考えられます。

4. コミュニケーション能力の素地とは

 コミュニケーション能力の素地は,listening ability の習得と考えています。中学校1年生が学習することになっている英語の文を繰り返し練習して暗記することが「素地を養う」ことになるという考え方は正しくない,と思っています。むしろ,ALTや英語の担当者が英語で伝えようとしている内容を,その場の状況や先生の表情・身振りなどから理解する広い意味での「listening ability」の習得こそが「素地」だと考えています。そして,小学生には中学生に比して,そのような力が一層豊かに備わっていると思います。このことは,これまでの多くの先生方の実践によって実証済みだと思います。

 また態度面のコミュニケーション能力の素地として@間違いを恐れずに,自分から積極的に活動しようとする。A知らないことは尋ねようとする。B話したい,聞きたいという気持ちを持つ。C助け合って,協力しながら活動しようとする。D友だちの良さを認め合い,ほめようとする。E自分とは違う考えを尊重しようとする。F共感的に相手の立場に立って理解しようとする,などが考えられます。

 発話については,例えば,Nice to meet you. と言おうとして,Nice meet you. と言ってしまうような程度は許容する姿勢が必要だと思います。I like baseball., Do you like baseball?, What sports do you like? などの基本的な表現は,listening 活動の結果として習得していく,といった指導方法を主流とすべきではないでしょうか。

5.教材について

 「何をどの程度教えるべきか」を解決するためには,一定の語彙,文法事項を定めた(例えば『英語ノート』のような)「教材」が必要だと思います。中学校とのスムーズな接続を考えると,一定地域でシェアする共通カリキュラム作成が必要になります。そのようなカリキュラムに沿って,ゲームや歌やチャンツを活用しながら授業展開をする。スキル面は強調せず,リスニングを中心とした指導法を採用する(英語は楽しいと感じさせることが最も大切…)。これが私の目標です。ただ,どの程度のスキルまで「英語活動」の中に含めるべきか。この点が私の苦慮している点です。

 また英語活動が小学校の現場の先生方に今以上の負担を強いることは確実です。しかし英語活動を取り入れることによって,落ち着かない子どもが話しをきけるようになった,発表の姿が成長した,人間関係が良くなった…というような学級運営面でも効果があった話を聞きます。英語活動をマイナスの面から見ることなく,プラスの面でも積極的に評価することによって,多くの先生方の英語活動の取り組みが変わっていくことと思います。

西澤浩 (にしざわ ひろし)
長野県中条村立中条小学校教諭。メキシコの日本人学校に3年間勤務。特に国際理解教育を重視した英語活動に重きを置いて実践活動を続けている。 県内の先生を対象に実践発表もしている。

〜西澤浩先生の提言を受けて〜

 西澤先生の考え方は大変示唆に富んでいます。同時に,多くの先生方に共通した悩みや不安も感じられます。

 西澤先生は,発音指導,指導体制,コミュニケーション能力の「素地」,「外国語活動」のテキスト,英語のskill について述べられていました。

 西澤先生は「listening ability」の習得こそが「素地」だと考えています。それは,インプットが極端に少なかったこれまでの英語教育の反省点でもありますね。「英語を聞いて分かる」という力を養う機会に恵まれなかったために,listening ability が乏しく,そのためcommunication能力に自信がもてない日本人が非常に多いわけです。正に「コミュニケーション能力の素地」を築くチャンスを失ってきてしまったわけですね。

 『英語ノート』の話も出てきましたが,このテキストは,やがて全国的に広く使用されるようになるかもしれません。そのような傾向(全国一律の教材使用)が好ましいことなのかどうか。全国の多くの小学校英語活動実践家の中にも教科書の必要性を主張する人が大勢います。ただ,全国共通のものは望ましくない,という方も多いようです。また,教科書を持つと,先生方に「英語を教える」という姿勢が強まり,新『学習指導要領』にも記述されている「外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさ」は失われてしまう危険性もありますね。これも今後検討しなければならない大きな課題のひとつですね。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

次回は,「総合的な学習の時間」の枠内で進めてきた英語活動と,新しい『学習指導要領』の目指す英語活動との整合性や課題について,具体的に掘り下げて見たいと思います。 

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