小学校英語活動コラム

 第3回は,北海道旭川市立北光小学校教諭の小山俊英先生に,外国語活動の目標である「コミュニケーション能力の素地」をテーマにし,カリキュラムと教材,そして指導法について,先生のお考えをまとめていただきました。

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[第3回]コミュニケーション能力の素地と指導法

小山 俊英 (北海道旭川市立北光小学校教諭)

1 外国語活動の目標 〜コミュニケーション能力の「素地」と「基礎」〜

 新学習指導要領で小学校外国語活動の導入が決まり,目標に「コミュニケーション能力の素地を養う」という観点が示されました。この「素地」という考え方は,中学校との滑らかな接続の点からも極めて重要です。なぜなら,今後,中学校では,小学校で養った一定の素地を踏まえての指導が行われることになるからです。

 過日,中学校で英語を指導する先生方の研修会に招かれ,小中連携をどのように進めたらよいのかということについて講演をする機会を持ちました。その際に,「小学校で養う素地のイメージをどのように持っていますか」という私の質問に対して,「アルファベットを読んだり書いたりできるようになってほしい」,また,「日常の簡単な会話を身に付けて中学校に来てほしい」等,skillや abilityなどの側面を求めている先生方が,約3割程度いました。残りの7割の先生方は,「英語が楽しいと感じたり,進んでコミュニケーションをとろうとしたりする生徒であってほしい」等,関心・態度の側面の内容に集中していました。

  小学校で育む「素地」には,skillや abilityなどの側面と関心・態度の側面があります。私はこれまで「英語嫌いをつくらない」「慣れ親しむ」ための英語活動という2つの指標を掲げ実践を積み上げてきたこともあり,今後とも関心・態度の側面を重視した指導を行っていきたいと考えています。外国語活動を通して,positive attitudeを身に付けた児童を育むことが,私の目標です。 

 小学校で養った素地のもとに,中学校では,コミュニケーションの基礎(聞くこと・話すこと・読むこと・書くことの4技能や,進んでコミュニケーションをとろうとする態度等)を築くことになります。私が考えているコミュニケーション能力の素地は,小学校での外国語活動が「家を建てる際の地ならしした土地」,中学校での英語学習が「ならした土地の上に建つ家」というイメージを持っています。また,ならした土地を「コミュニケーション能力の素地」,家の土台や柱にあたる部分を「コミュニケーション能力の基礎」と考えることで,中学校との関連も明確にすることができると思います。

2 コミュニケーション能力の素地を育むために

 さて,その素地を養うためには,様々なポイントがあると思われますが,私は次の2点を重視しています。

(1) カリキュラム(年間指導計画)編成と「小学校英語ノート」の活用
  各学校で外国語活動のカリキュラム(年間指導計画)が編成されることになりますが,それに先立ち,外国語活動を通して「どのような子どもを育てたいのか」(目指す子どもの姿)を明確にする必要があると思います。「目指す子どもの姿」には,外国語活動の目標を発達段階に即して具体的に盛り込んでいくことが必要です。私の勤務校では,外国語活動の目標を「やりぬく力」「かかわる力」「あらわす力」の3つの力で構成されるものと考え,低・中・高学年ごとに「外国語活動で目指す子どもの姿」を具体化し,年間指導計画の作成に繋いでいます。 

 また,来年春より,全国の小学校に「英語ノート」が配布されるということですが,それをどのように活用していくのか,どのように年間指導計画に位置づけていくかを検討しなければなりません。「英語ノート」の使用が有効である題材(内容)もありますが,中には,これまで蓄積してきた教材・教具を用いた方が有効な場合があります。私の勤務校では,「英語ノート」をベースにしながらも,活動内容(題材)に合わせて,これまで蓄積してきた教材・教具を生かすことができるように年間指導計画を編成する予定で準備を進めています。いずれにしましても,指導者が,活動内容に応じて,教材を選択し,使いこなす力量を身に付けていかなくてはならないと考えます。

 過日,とある研究会で,「英語ノート指導資料」を回覧しました。その中にある指導プランを見た参加者は一様に,「これは,無理!」「この進め方は,私にはできない」を連発していました。「英語ノート」を使用した授業の在り方を含め,充実した教員研修の必要性を痛感しました。

(2) 共有化できる指導方法の導入
 今回導入された外国語活動は,これまで総合的な学習の時間で行ってきた英語活動とは,目標やベクトル(目指す方向性)の相違点が多少あるものの,指導方法に関しては,大幅な転換を必要とすることはないと考えています。(ただ,「外国語活動を通して文化を学ぶ」という点はこれまで以上に意識して,単元や活動を構成することが求められています。ともすると英語のスキル面やコミュニケーション活動を重視するあまり,忘れがちになる内容だからです。)

 外国語活動を実施するにあたり,全校体制でその指導方法を共有化し,授業実践に取り組むことは,有効な手段であると思います。授業研究や教材開発等,全ての教師が同じ土俵で研修や実践に向かうことができるからです。

 私の勤務校では,『B-SLIM』(カナダ・アルバータ州立大学・O.Bilash博士が考案した第2言語指導方法=Bilash's Success-guided Language Instructional Model)を導入し,実践にあたっています。それにより,1時間の学習過程や単元構成の考え方等を初めとした理論的バックボーンを持つことができました。また,ALTとのティームティーチングの進め方等,指導方法の細部にまでわたり,学校ぐるみで研修する機会を持つこともできました。指導プランや教具等を共有管理し,誰でも自由に使えるようにすることで,準備にかかる負担が軽減できるようになり,英語を初めて指導する教師にとっては,これ以上ない環境を作ることができたと思っています。

 このように,教師自身の積極的に外国語活動に関わっていこうとする意欲や姿勢が,子どもたちの「コミュニケーション能力の素地」をつくる最大の原動力になると私は考えています。

小山 俊英 (こやま としひで)
旭川市立北光小学校教諭。「旭川英語教育ネットワーク」(AEEN)統括コーディネーター。数多くの研修や講座で講師を務める(平成19年度上川教育研修センター「小学校英語活動」講座講師)。平成18年度北海道教育実践表彰(個人表彰)受賞。主な著書─『子どもが生き生きと活動する英語活動』(教育出版,共著),『これからの小学校英語教育〜理論と実践』(研究社,共著)他。

〜小山俊英先生の提言を受けて〜

 現行の「英語活動」は,総合的な学習の時間の枠内で実施されているため,中学校の英語教育とは直接の関係がありません。ところが,今年3月に告示された新学習指導要領のもとでは,高学年で必修とされている「外国語活動」では「英語コミュニケーション能力の素地を養う」ことを目標としています。このため,「英語活動」を実践している学校や教員によっては,これまでの授業内容や指導方法を大きく変える必要が出てくるのではないか,という不安があるかと思います。この点について小山先生は2.の(2) で「目標やベクトルの相違点が多少あるものの,指導方法に関しては大幅な転換は必要ない」と考えています。とは言え,国際理解を目標として実践している小学校の割合は非常に高く,それらの学校では,英語教育に重きをおいている旭川市の小学校とは少し事情が違うかもしれません。「外国語活動」の目標を吟味し,これまで積み重ねてきた実践の成果ができるだけ活用できる方途を見出してほしいと思います。

 目標と絡めてもう一つ問題となるのは,どのような力が備われば「素地」が築かれたことになるか,という点です。小山先生は,中学校の先生の考えているイメージを紹介しつつ,skill面と関心・態度面の両方が必要で,どちらかと言うと後者が一層重要だと述べています。「英語が楽しい。中学校に行ったらもっと英語を勉強したい」という内発的な動機が次第に高まっていく時,一定の「素地」が出来たと言えるでしょう。このような積極的な態度や動機付けについては,英語に限らず,すべての学習に共通することでしょう。とりわけ英語については,pattern drillや英文・単語の暗唱ばかりに傾いた指導は避け,子どもたちが,ALTやHRTなどの話す英語を聞いて,文脈からその意味を推測できる力を育成することこそが素地の養成に繋がると考えたらいかがでしょうか。

  「外国語活動」は週1単位時間程度を必修としています。これは,教育の機会均等と学力の平準化ということが背景にあります。それには教材の共有化が必要であり,小山先生は,『英語ノート』の活用を提案されています。また,『英語ノート』をそのまま使用するのではなく,独自に開発した教材・教具を用いた方が効果的な場合には,部分的にそちらを当てたいとも述べています。『英語ノート』は教科書ではないので,必ず使う必要はありません。ただ,市販の多くの教材と違い,『英語ノート』は新学習指導要領に基づいて作成されていることを認識する必要があると思います。

  小山先生は,「指導方法の共有化」を提案されています。「学び合い」の大切さを考えても,大切な提案だと思います。私が長野県の小学校教員を対象に実施したアンケート調査によると,研修として最も必要なことのトップに「実際の英語授業を想定したワークショップ」や「ベテランや同僚の授業の参観」が挙げられています。現職教員の研修に当たって,参考にしていただきたいと願っています。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

次回は,中学校の先生が期待する「外国語活動」の中身について,おうかがいしたいと思います。 

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