小学校英語活動コラム

 第6回は,長野県小布施町立栗ガ丘小学校の鶴田恵市先生に,指導法について,先生のお考えをまとめていただきました。

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[第6回]「外国語活動」の指導のポイント 〜インプットの多い授業をとおして,ことばや文化について考えさせる〜

鶴田恵市 (長野県小布施町立栗ガ丘小学校)

1 インプットの多い授業

 インプットの多い授業は,必然的に教師が英語を話す量が増えることになります。「これから外国語活動を始めよう」という先生方には,高いハードルに思えるかもしれません。

 そこでまず,歌やゲーム等の授業からスタートします。教師も子どもたちも外国語活動に慣れた頃に「ことばや文化」についての授業を行うことをお勧めします。

 多少の準備をしていただくことを前提にして,インプットの多い授業をとおして,ことばや文化について考えさせるためのポイントを本コラムで提案させていただきます。

2 授業づくりのポイント

 インプットの多い授業作りのポイントを6つ提案し,以下にそれぞれについて簡単に説明します。

(1) 1つの題材を5分〜15分程度の時間で扱う
  英語に堪能な教師であっても45分間インプットを与え続けることは困難です。授業の後半の5分〜15分程度で,身近な内容を扱うといいでしょう。

 教えたい内容がたくさんあったとしても,欲張らないことがポイントです。

(2) 簡単な英語で進める
 英語に自信のある教師ほど,難しい表現を使いすぎて失敗してしまう話をよく聞きます。逆に英語が苦手な教師は,簡単な単語を並べたり,同じ内容を繰り返したり,ジェスチャーを加えたりと工夫をします。

 まとまった英語を聞かせることは大切です。しかし,最初から難しい表現を使うと,教師も子どもたちも授業に抵抗を持ってしまいます。

(3) 子どもたちにとって身近な内容を題材にする
 題材が身近であれば,それだけで子どもたちは一生懸命に聞こうとします。教師がどうしても伝えたい内容を題材にする場合も,子どもたちの身近な話題からその題材に入っていくことが必要です。

 文化のことを英語で授業するときの題材選びのポイントは「同じ内容を日本語で授業して子どもたちが楽しいか,驚きがあるか」です。

(4) 写真や映像を提示しながら進める
 英語でインプットする場合には,写真や映像はとても重要な教材です。子どもたちは,写真や映像を頼りに英語の説明を推測しながら聞きます。推測しながらでも内容がわかれば「英語がわかった!」と自信がつきます。慣れてくれば,英語で聞いていることなど意識せずに内容にのめり込んでいきます。

 映像は流しっぱなしでは面白くありません。映像を止めて,教師の簡単な解説を加えたり,子どもたちに考えさせたりする等の工夫が必要です。また,文化の紹介などが日本語でなされている資料映像の場合,日本語の音声は流しません。教師が簡単に英語で説明を加えていけばよいのです。

(5) 実物を用意する
 可能であれば実物を用意します。これだけで子どもたちは授業に食いついてきます。子どもたちの興味関心が高ければ,そのテーマについての情報を知りたがります。自分のわかる単語からだけでも理解しようとします。

(6) 教師の説明だけでなく,子どもたちとやりとりしながら進める
 説明を聞いているだけでは,どんなに興味がある内容でも次第に飽きてしまいます。例えば,何か新しい物を紹介したら,「それが好きか,持っているか,欲しいか」と簡単に英語で問いかけます。全体に問いかけて挙手させる場を作るだけでも,子どもたちは集中を持続させます。

 この際の子どもたちの反応は,日本語で充分ですが,教師の聞き方次第では,子どもたちが知っている英単語等で反応させることもできます。

3 具体的な授業の例

(1) 外国産クワガタ・カブトムシの実態
 数年前,子どもたちの間で外国産クワガタ・カブトムシが大ブームになりました。近くのホームセンター等でも手頃な値段で購入できるようになり,多くの子どもたちが自宅で飼育していました。

  そんな時期にテレビの特集で,クワガタ・カブトムシの産地であるラオスでの,昆虫の乱獲による環境破壊の様子が流れました。昆虫を手にして喜んでいる子どもたちにも考えさせたい内容でした。

 インターネットからラオスの国の様子がわかる画像を印刷して,1枚ずつの写真に簡単な英語の説明を加えました。テレビ番組は30分ありましたが,使ったのは数分だけです。全体でも扱った時間は10分程度です。

 授業後の感想では,多くの子が内容について自分の考えを書いていました。「英語が難しかった」等の感想はありませんでした。英語の説明であったにもかかわらず,内容にのめり込んでいたのです。

(2) 外国の学校の給食
 給食のある国では,給食にその国の食生活が出ています。子どもたちにとっては「日本との違い」を比較することも楽しい内容です。

 インターネットから各国の給食の画像を印刷して,1枚の画像につき2〜3文の説明を英語で加えました。説明後に,縮小した給食の画像と国旗のイラストを班に配布しました。子どもたちは,相談しながら給食の画像と国旗のイラストをマッチングさせていきます。各国の特徴を考えながらグループで盛り上がる活動となりました。

4 終わりに

 このような授業を行うには,授業の準備に時間がかかり大変な面もあります。1人では大変ですが,校内の先生方と協力すれば多くのアイディアが集まります。教材の共有化もできます。

  題材を探し,教材作りをしている過程で,教師自身も多くの発見や驚きに出会います。子どもたちに伝えたい内容が次から次へと出てくるはずです。

鶴田 恵市 (つるた けいいち)
長野県小布施町立栗ガ丘小学校教諭。英語は「得意」ではないが,平成14年度から小学校で英語活動の実践を続ける。担任が1人で行える授業を目指して実践を重ねる。県の研修センターでの実践発表あり。

〜鶴田 恵市先生の提言を受けて〜

1.はじめに
 移行措置で,「外国語活動」を平成21年度から導入することが可能になりました。予想以上に多くの小学校が平成21年度から導入するようです。長野県を例に挙げますと,長野市が60%,東御市が100%といった具合です。しかし,条件や教員の心理的な準備が整っているか,というと不安な点も少なくありません。平成21年2月8日の朝日新聞によると,半分以上(53%)の学校が,不安があると回答しています(平成20年8〜9月,旺文社による全国アンケート調査)。

 一方,前回までの本コラムの見解によると,「英語のインプットをトップダウン的に与えながら,ことばや文化についての内容を扱う」授業が,「外国語活動」の望ましい方向であるとされています。英語を聞く力が身につき,ことばや文化についても発見が多く,子どもたちは英語についての興味や自信が高まり,英語によるコミュニケーション能力の素地が確実に育っていく,というわけです。

 しかし,問題は,英語にあまり自信がない教員の場合,どのようにしたら英語のインプットを増やしていくことができるかということです。このことについて,鶴田恵市先生は,豊かな経験に基づき,具体的に実践可能なヒントを,多様な角度から提示してくださいました。先生のご示唆の中から,いくつかを取り上げ,コメントしたいと思います。

2.徐々にインプットを増やすこと
 英語の運用力のある教員や,ALTとのT-Tがうまくいっている教員の授業を見ると,自分もあのように英語を使わなければならないと思い,焦りを感じる人が多いかもしれません。

 それにはまず鶴田先生のおっしゃるように,ジェスチャー,顔の表情,実物,絵や写真,地図などを補助教材に活用して,英語の指示や説明を少しずつ増やしていくことがよいと思います。例えば,スーパーの野菜や果物の売り場をクローズアップした絵か写真を生徒に配布します。野菜や果物にナンバーを付しておくと,活動が豊かになります。先生は,次のような指示を与えます。

 I’ll say a word. Please touch the fruit or vegetable. Are you ready?

 先生は,子どもたちの知っていそうな単語から始めます。banana, apple, orange, tomato, watermelon, potato, onion, carrot, pumpkin, etc. 子どもたちは夢中になってtouching gameを楽しむと思います。次に,I’ll say a word. Please tell me the number. Do you understand?(先生は徐々に英語の表現を増やしていきます) watermelon, apple, tomatoなどという先生の発話に対して,子どもたちは,Three, Five, Oneなどと数字で回答します。次に,先生がThis time, I’ll say a number. Please tell me the English word.と言って, One, Five, Eightなどと授業を進めます。

 このように授業を進めると,鶴田先生のおっしゃるようなInteraction(子どもたちとやりとりしながら進める)も可能になります。

3.歌やゲームの利点(インプットの視点から)
 歌やゲームについては,子どもたちの興味をひく手段として語られることが多いのですが,英語のインプットという点からも効果があります。歌やゲームについて先生が指示する場合,決まった表現があるからです。歌の場合を例に,よく使われる表現を挙げてみましょう。Now, let’s sing a song. First, listen to the CD (very carefully). This time sing after the CD. I’ll sing the first part and so please listen. Do you like this song? You learned two songs. Which song do you like better? ABC song or Hello song? ABC song? Raise your hand.といった具合です。場面や状況次第で,子どもたちは,先生の発話する英語を無意識のうちに理解していきますし,先生も次第に英語を使うことに慣れていくでしょう。

4.題材の準備
 鶴田先生のご提案の中で大切なことの1つは,日頃から子どもたちに興味のありそうな題材を集めておくことです。そして,校内の先生方がそれらを共有財産として活用することが大切だと思います。興味深い題材を使って,ことばや文化について新たな事柄を発見するように授業を仕組むと,英語を意識せずに英語を自然に理解していくような授業が可能になると思います。先生が英語を使いすぎず,例えば映像や写真や絵などをゆっくり見せながら,時々タイムリーに英語を交えながら授業を進めることが効果的です。そのように進めることは,英語があまり得意でない先生にとっても馴染みやすいのではないかと思います。

 最近筆者が出会った優れた授業を1つ紹介します。長野県には信越線の電車が走っています。先日,昔走ったSLを走らせ,多くの鉄道ファンが集まりました。授業者の先生も参加し,記念のお弁当を買ってきました。 子どもたちにお弁当を見せて,How much is it? Can you guess?と尋ねると,子どもたちは,800円,1,000円などと口々に意見を出しました。頃合いを見て,先生は,It’s 2,000 yen. と種明かしし,Is it cheap? Raise your hand.(誰も手を挙げませんでした) Not cheap?全員が手を挙げました。そこで先生は,Look. Look at the lunch box very carefully.と言って,弁当箱を開けました。弁当箱からは「汽笛一声新橋を…」というメロディが流れてきました。子どもたちは目を丸くして,感動しました。先生は,続けて次のように説明しました。First, I thought this lunch was very expensive, not cheap. But I opened the box and listened to the music. I was very happy. thoughtとかexpensiveなどといういくつか知らない単語があっても,状況から子どもたち全員が理解し,「物の価値」について,無意識に英語を通して学ぶ経験をしたことになります。

5.おわりに
 Lunch boxの題材を使った例を取り上げましたが,題材を選び,タイミングをうまく使えば,やさしい英語でもさまざまな内容を体験させることができることを分かっていただけたと思います。インプットの与え方として,むやみにたくさんの英語を与えず,単純な英語を選んでタイミングよく与えることも効果があることを学んでほしいと思います。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

次回は,ALTとのT-Tを通して効果的にインプットを与える方法について,小学校の先生に,具体的に発表していただきます。

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