小学校英語活動コラム

 第7回は,福岡県太宰府市立太宰府西小学校の上原先生に,ALTとのTeam Teachingを通して効果的にインプットを与える方法について,先生のお考えをまとめていただきました。

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[第7回]ALTとのTeam Teachingにおける望ましいコミュニケーションとは

上原 明子(福岡県太宰府市立太宰府西小学校)

1 ALTとのTeam Teachingの意義

 私はアメリカの公立小学校でイマージョン教育に携わった経験があります。イマージョン教育は算数などの教科を外国語で教えることですが,初期の段階の指導は外国語活動で生かせる部分が多く,私はとてもよい経験をしたと思っています。イマージョン教育では,全くその外国語を知らない児童に,ジェスチャー等を駆使してその場に合う言葉をインプットしていきます。初期の段階はほとんどがインプットで,アウトプットを急ぎません。しかも,外国語そのものを教えるのではなく,外国語は『何かを伝える手段』なのです。

 日本の従来の英語教育は,単語や文法を一つひとつ覚えさせては次へ進んでいたように思います。だから一つ単語がわからないとすべてがわからなくなり,コミュニケーションがそこでストップしてしまうことが多々あったように思います。そうならないためには,多少知らない英語が含まれていても,場の状況等から相手の話を予想して聞き,大体の内容をつかむ経験が初期の段階から必要です。

 小学校における外国語活動では,単語やフレーズを練習やゲームを通して覚えさせることに終始せず,自然に話される英語を聞いて相手のことを理解したり,未知のことを知ったりする経験をさせたいと考えます。しかし,英語を自由に使え児童の反応に臨機応変に対応できるHRT(学級担任:Homeroom Teacher)は少ないことから,ALT(Assistant Language Teacher)が大きな役割を果たします。ALTとのTeam Teachingの意義は次の3つだと思います。

  1. ALTは場に応じた自然な英語で児童とのやりとりをすることができる。
  2. HRTと実際にコミュニケーションを図っている姿を見せることで英語がコミュニケーションの道具であることを実感させることができる。
  3. 外国の様々な習慣や考え方を伝えることができ,習慣や考え方が違っても人間として同じであることに気付かせることができる。

 したがって,ALTをただ機械のように英語を発する存在として活用するのではなく,ジェスチャーや顔の表情を含めた非言語コミュニケーションを駆使した双方向のコミュニケーションを行う存在として,ともに活動していきたいと思います。

2 よりよいTeam Teachingのために必要なこと

 よりよいTeam Teachingで大切なことは,HRT主導で進めることです。授業でも進行はHRTが行います。“Let’s start. Today’s topic is ... . First, let’s sing together. Second, watch our demonstration. The last activity is ... . Explain the rules of the game. That’s all for today.”のような英語を使って進行をします。また,タイムキーパーの役目を果たすことも大事です。ALTの話が長すぎたり,話題が逸れてきたりしたら,“We don’t have enough time. Let’s move on to the next activity. ”と言って軌道修正しましょう。

 打ち合わせにおいてもHRTが主導権をもつことが大事です。まず,指導案を準備します。ALTに話してほしい部分は簡単な英語で記入しましょう。使用する教具があると,実演をしながら説明できるので,英語での打ち合わせが簡単にできます。

3 よりよいコミュニケーション活動のためのHRTの役割

 授業の中では,できるだけ自然な会話を心がけたいものです。「英語ノート」(文部科学省)の指導資料を見ると,単元の導入の場面で,トピックに沿ったHRTとALTの自然な会話の例が示されています。例えば自己紹介の単元では,好きなものや嫌いなものについて,衣服の単元ではお互いの服についての会話をするなどです。ALTとの自然な会話に自信がないHRTは,学習者のモデルとしての役割を演じましょう。ALTの話に少し大げさにうなずくなどの反応をすることが大事です。また,ALTの話を児童が理解できているかを常に見ておく必要があります。必要に応じて“Once more, please. ”や“Slowly, please. ”とALTに依頼したり,ALTの説明の中でキーワードとなる言葉を繰り返したりして児童の理解を助けます。また, ALTの質問への答え方がわからない様子の児童に,答えの例を示すと効果的です。例えば,“How many pencils do you have? ”という質問に“Four? ”,“Five?”などと指で数を示しながら言うと,児童は数が尋ねられていることを理解することができます。

4 ALTがいるからこそできる活動を

 ALTは教室に異文化をもたらしてくれる存在です。私は先日5年生の家庭科との関連で卵料理を題材に授業を行いました。児童は家庭科でゆで卵と炒り卵の調理実習を行っています。そこでboiled egg, scrambled eggという英語やその作り方を英語で学習しました。その後,ALTの国の卵料理を教えてもらいました。omelet(オムレツ)や sunny-side up(目玉焼き)など日本にもあるものやpoached(沸騰したお湯に卵を落として煮る)や over-easy(両面を焼く)など日本ではあまり見ない卵料理がありました。また,朝食をオーダーしたら“How would you like your eggs? ”と尋ねられることを紹介し,児童一人ひとりがどの卵料理を注文したいかを答えました。私のクラスではomeletとscrambled eggが人気でした。さらにそのALTはイギリス出身なので,代表的なイギリス料理としてfish and chipsとroast beefを紹介してくれました。ALTは写真を見せたりジェスチャーをしたりして調理法や味,どんな時に食べるかなどの説明をしました。児童は,ALTの話す英語そのものではなく内容を楽しんでいました。

上原 明子 (かんばる あきこ)
太宰府市立太宰府西小学校教諭。文部省(現文部科学省)の派遣で2年間,米国フォックスミル小学校にてイマージョン教育に携わる。福岡県教育センターの小学校英語活動担当として教員向けの研修をすすめるとともに手引き書を作成。文部科学省「小学校英語活動研修講座」,「ALT来日直後研修会」,「小学校英語活動地域サポート事業」等多数の講師をつとめる。第56回読売教育賞外国語教育部門最優秀賞受賞。啓林館「小学生のえいご」共著,明治図書「小学校英語セミナー」連載等。

〜上原 明子先生の提言を受けて〜

1.はじめに
 メキシコやアジアからの移民が多いSalt Lake Cityでイマ―ジョン教育を数多く見聞きした経験から,上原先生のお考えに理解できる点がたくさんありました。特にcommunication場面で,「『自然に話される英語』をtop-down的に理解しようとする状況を作り出すことが,子どもたちの英語習得にとって最も大切であろう」という点は多くの先生に理解してほしいと思います。「単語を覚え,学習者にとって興味のない文を機械的に反復練習し,与えられた会話を暗唱する」といったbottom-up的な指導法から脱却したいものです。

2.「自然に話される英語」について
 話す側(ALTやHRT)に伝えたいメッセージがあり,そのメッセージが子どもたちにとって興味があることが必要条件になるかと思います。上原先生が述べているように, ジェスチャー,表情,声色を駆使し,できるだけ子どもたちとinteractionしながら話を進めていきます(子どもたちからはYes./No.などのone word を引き出す程度かもしれません)。その場合,黒板に絵を描いたり,ときには地図や写真を使ったりしながら,子どもたちの理解を助ける工夫が必要です。ALTなどのメッセージが子どもたちに理解されれば成功です。「外国語(英語)そのものを教えるのではなく,英語は『何かを伝える手段』」という上原先生のお考えを,ぜひとも心に深くとめてほしいと思います。ただ,アメリカにおけるイマージョンとは大きな違いもあります。それは,インプットの量です。私たちの場合は,最高でも週に45分程度しか時間がありません。そこで,ALTやHRTの話す英語が,子どもたちにとって理解可能なものとするよう,最大の努力と工夫をすることが課題となってきます。ALTとチームを組むHRTの役割が大切になってきます。

3.HRTの役割
 この点についても上原先生のsuggestionsは大変有効と思います。HRTが,「@Teaching Plan を必ず事前に用意し,A教具・教材も用意する」ことはALTとのinteractionのきっかけを作るという点で大変役に立つと思います。教材についてはALTにすべて任せてしまうのではなく,少なくとも教材の一部を準備すると,ALTとのinteractionにプラスになるだけでなく,ALTのbetter ideaをひきだすことにもつながるかと思います。

 そして,“Make groups of four.”や“Choose the right card.”など,子どもたちへの英語での指示と同様に,授業中におけるALTへの働きかけを英語でできるような努力をぜひとも重ねていってほしいと思います。

 最後になりますが,上原先生も“Once more, please. ”など,いくつか例を挙げているように,HRTにはできるだけ多くの英語表現を使ってほしいと思います。子どもたちにとっては,communicationの実例に触れることになりますし,日本人の英語に対する信頼感も無意識のうちに高まってくると思います。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

次回は,渡邉時夫先生が,わかりやすい英語を話す工夫の1つとして,MERRIER Approach を紹介します。

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