小学校英語活動コラム

 第8回は,これまでの先生方のご提言を受けて,本コラム主宰の渡邉時夫先生が,わかりやすい英語を話す工夫の1つとして,MERRIER Approach を紹介します。

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[第8回]わかりやすい英語を話す工夫―MERRIER Approachの紹介―

渡邉時夫(清泉女学院大学)

1. はじめに

 小学校の「外国語活動」の目標は,「コミュニケーション能力の素地を養う」ことです。「素地を養う」の中身は,コミュニケーションを図ろうとする積極性や初歩的な英語を発話しようとする態度を支援することなどが考えられますが,最も大切な部分は,子どもたちがALTやHRTの話す英語を聞いて,その内容をtop-down的におおむね理解する力を養うことだと思います。

 この基本的な考え方に基づき,英語のシャワーを浴びせようと努力しているALTやHRTも大勢いらっしゃることでしょう。このこと自体は大変歓迎すべきことと思います。ただ,子どもたちが,はじめて出会う英語という言語を聞いて,話し手のメッセージを理解するということは,決して容易なこととは言えません。ALTやHRTの話す英語を子どもたちが理解できず,戸惑ったり,授業に乗ってこなかったりする場合も少なくないはずです。例えばそのようなときに,HRTがALTに,“Please use easy English.” “Please speak slowly.” などと話してお願いしても,ALTはどうしたらよいか見当もつかず,困ってしまうかもしれません。

 実は,HRTもALTも,子どもたちにわかりやすい英語を話す工夫をする必要があるのです。今回はその方法のひとつとしてMERRIER Approachを紹介したいと思います。この方法は,小学生だけでなく,中学生や高校生を教える際にも大変有効だと高く評価されています。英語をtop-down的に理解させる際に役立つ方法なので,お勧めいたします。

2. MERRIER Approach の勧め

 ‘MERRIER’ は,下記7つの単語(話す視点)のイニシャルを結んで編み出した名称です。それぞれについて具体例を挙げながら紹介していきましょう。

Mime, Example, Redundancy, Repetition, Interaction, Expansion, Reward

Mime (or Model)
「身振りや表情,実物や視聴覚教材を活用して説明します」
 できるだけ身振りと表情を交え,実物を見せたり,イラストや写真,地図,グラフなどの視聴覚教材を活用して話します。例えば,カナダの地図を子どもたちに見せながら,“This is the map of Canada.” と言えば,子どもたちはすぐに理解できることでしょう。子どもたちの理解を助けるためには,先生の多少大げさな表情や身振りも大切になってきます。

Example
「単語や話の内容が抽象的だと思ったら,具体例を出すことが必要です」
 具体例の示し方には,いろいろな方法があります。

(a) 具体例の列挙
 一番簡単な方法は,具体例を列挙することです。例えば,“Do you like vegetables?” と言ったあと,子どもが ‘vegetables’ を理解できないと心配になったら,“Cucumbers, carrots, potatoes, ...” というように,野菜を列挙します。その上で “Do you like vegetables? ” と問い直すと,理解できるのではないでしょうか。

(b)「抽象のはしご」を下る
 抽象度が高い話は,子どもたちには分かりにくいですね。本稿では,「はしご(梯子)」の例えを使って,抽象度を説明してみようと思います。はしごの一番上段を最も抽象度の高い内容とし,はしごを1段1段下がるにつれて,次第に内容が具体的になるということです。その下りの例を挙げましょう。

 海外で,現地の人と話していますと,よく“Where do you live in Japan?” と聞かれます。そのときに,“I live very far from Tokyo.” と答えたとしたらどうでしょう。抽象度が高く,「抽象のはしご」の上段にいることになります。相手は私の町(長野県小諸市)が日本のどのあたりにあるのか分りません。そこで,“I live about 200 km away from Tokyo.” とか “It takes about two hours by super-express train from Tokyo to my town.” と説明すると,次第に具体化し,私の町の地理的な位置が一層明確になってきます。その外国の人が軽井沢や上田を訪ねた経験のある人でしたら,“My town is between Karuizawa and Ueda.” と言えばますます理解が深まると思います。「抽象のはしご」を,どんどん下っていくことになります。

 次にもう少し複雑な内容についての例を挙げましょう。

 日本の自然の美しさを紹介するときに,“Japan is a beautiful country.” と言っただけでは,表面的な意味は分かってもらえても,日本の自然の様子を真に理解していただけないかもしれません。その場合,例えば次のように「抽象のはしご」をどんどん下りて,相手ができるだけ具体的にイメージ化できるように説明したらいかがでしょう。

  “We have many trees everywhere in Japan. Go to Hokkaido in spring, and you will find a lot of mountains. They are very green. Go to Nagano, and you will find a lot of mountains. There are many green trees in the mountains, too. (日本地図を指差しながら)Every place from Hokkaido to Okinawa has many green trees. Go to those places in autumn. The mountains are very colorful. They are red and yellow. Japan is a beautiful country.” (最後に,最初の文Japan is a beautiful country. にもどると,「抽象のはしご」を上り下りしたことになります。このように,「上り下り」することをとおして,英語を聞いて意味をなんとなく理解する力が育っていくのです。)

Redundancy
「多様な発想による説明を心がけます」
 ひとつの事柄の意味を伝えるのに,同じ内容を表す様々な英語表現を用いるだけでなく,発想自体を変えて話すように努めると,理解を一層容易にすることができます。例えば,黒板に書いてある文字などを書き写させようとするときに,“Please write down the words on the board.” という指示を理解できない子どもがいた場合,“Please copy the words.” というように表現を変えるだけでなく,全く発想を変えて,“Please open your notebook.” とか,“Do you have a pencil?” などと話しかけてみてはいかがでしょう。子どもたちは「ノートに書き写すのだな」ということが推測できると思います。先生の指示をすべて理解できなくとも,子どもたちは少なくともヒントのひとつは理解できるのではないでしょうか。

Repetition
「繰り返します」
 必要と思われる表現や内容は,意図的に繰り返し使うことをお勧めします。大切だと思われる単語や表現は,できるだけ繰り返し使うことです。「記憶」や「印象」の大切さを強調しておきたいと思います。

Interaction
「子どもたちや,ALTとHRTとの英語によるやりとりを大切にします」
 子どもたちの興味・関心を維持し,積極的にコミュニケーションに関わろうとする態度を涵養するためには,interactionのあり方に工夫を凝らさなければなりませんが,そのときには,次のような考え方が大切です。

(a) Interaction の基本的な考え方
 ALT やHRT は,できるだけ英語を多用するようにしますが,子どもたちには話すことを強要しません。機械的な発音練習や,英文の暗記を強要しないことです(ただし,子どもが自然発生的に発話するのは妨げてはいけません)。

(b) TPR(Total Physical Response)を使い,全身を使っての活動
 中学校の英語の先生が行うようなQ-Aは控えめにし,その代わりに,先生が英語で指示を出し,子どもたちに頻繁に行動させることが大切です。つまり,TPRの活用をお勧めします。このような活動は,聞く力を育成するのに大変役立ちます。“Stand up.” “Make groups of four.” のような単純な活動だけでなく,慣れてくると,かなり複雑な行動をさせることができます。例えば,クレヨンを使って絵を描かせようとする場合には,次のような指示を出します。

 “Today we are going to draw pictures. So, go to your locker and get your crayons. But today we will use only three colors, red, blue, and yellow. Please get only three colors. Are you ready?”

(c) 「正確さ」よりも「口のすべり」を大切に
 十分にlistening ができた頃を見計らって単語や英文を言わせます。その際,発音についての厳しい指導は避けることも必要です。子どもたちが,英語を発話することが楽しい,と言ってくれたら大成功です。

Expansion
「子どもの発話を上手に修復したり,拡張してフォローします」
 子どもの英語の発話は,概して不完全なものです。子どもたちが当惑したり,不安な気持ちになったりしないように配慮して,それとなく修復しましょう。例えば,子どもが “I like a baseball.” と言った場合,“Oh, you like baseball?” と修正しながら話を展開するのです。 

 What is the season in Australia now? と問いかけると,子どもたちは,“Summer.” のよう1語で答えたりします。時によっては,“Yes, it is summer in Australia now.” などと拡張してやることもExpansion のひとつです。

Reward
「ごほうび─励まします」
 子どもの発話や返答(response)に対しては,常に温かい励ましの言葉を忘れないことが大切です。また,いつも “Good.” “Excellent.” “Good job” などの決まり文句だけでなく,“Your choice of words is good.” などと,できるだけ具体的に評価することが大切です。

3. おわりに

  MERRIER Approach を活用すると,子どもたちの理解度が高まり,当然ながら,外国語活動が一層楽しいものになるでしょう。また,MERRIER Approach を日常的に活用している先生は,英語の使い方が上達するだけでなく,子どもたちに考えさせながら授業を進めるコツも身についていくようです。ALTにもこのアプローチをご紹介いただき,外国語活動の目標達成に向け,頑張っていきましょう。

次回は,外国語活動を行う際に,担任の先生が身につけておきたい力「授業力」について,これまでたくさんの英語活動を経験されている先生にお伺いしたいと思います。

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