小学校英語活動コラム

 第9回は,立命館小学校の田縁眞弓先生に,外国語活動を行う際に,担任の先生が身に付けておきたい「授業力」について,先生のお考えをまとめていただきました。

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[第9回]担任の先生が身に付けておきたい「授業力」とは

田縁眞弓 (立命館小学校英語科アドバイザー)

1. 英語活動で必要な英語力を付けるために

 『英語ノート』(文部科学省)がすでに配布され,担任の先生(HRT:Home Room Teacher)主導の外国語活動(英語活動)がこの先どんどん進んでいくことになると思われる中,小学校の先生として一番不安に思われることは,英語活動を行う上で一体どの程度の英語力が必要か,またそのためには最低限何を準備しておくべきか,という点ではないでしょうか。

(1) クラスルーム・イングリッシュを適切に使用すること
 まず,最初にクラスルーム・イングリッシュ(“Sit down.” “Stand up.” など)をできるだけ使用するようつとめましょう。そのために,基本的なものはリストを見ながらチェックを入れ,1回の授業で,まず5パターンくらいからスタートし,やがて15パターンくらいは使えるようになりたいものです。子どもをほめることばも,先生自身が一番自然に口にできる英語,“Good job!” “Great!” “Very good!” “Excellent!” などを,自分のものとして何度も口にして練習することから始めましょう。先生が気持ちをこめて発する英語の一言は,ご自身の今後のさらなる英語使用のきっかけとなります。

(2) ティーム・ティーチングで会話を続けること
 次に,ティーム・ティーチングで教室にALT(Assistant Language Teacher)やJTE(Japanese Teacher of English)を迎えた場合には,できるだけたくさん英語のインプットを子どもたちに与えるため,2人の会話を続けるためのスキルを身に付けてください。ALTとティーム・ティーチングをするとき,私は “I see.(なるほど。)” “Really?(本当に?)” “Wow! That’s nice.(すごい! すてきですね。)”などといった相槌や感嘆のことばをよく使います。そして,“Oh, you like okonomiyaki.(へぇ,お好み焼きが好きなのですか。)”などのように,相手の言ったことを再び繰り返して子どもたちに印象付けながら確認したり,さらに,“Excuse me? What do you mean? What is ‘subway’? (すみません。今,おっしゃったことがわかりません。‘subway’ってどういう意味ですか?)” と,会話の中に出てくることばを通して新しい語を子どもたちに紹介したりします。

 小学校の先生方には,子どもの立場に立ちながら,積極的にこういった表現を口にできる技をぜひ身に付けていただきたいと思います。

(3) 音源を有効に利用すること
 最後に,音源の利用法です。授業の前には使用教材となる音源を繰り返し聞いて,チャンツなどは空で言えるように練習しましょう。耳で聞くのとほぼ同時に内容を繰り返す「シャドーイング」を試みてもいいかもしれません。通勤中に,音楽プレーヤーを使って,先生自身の英語への耳慣らしをしておいてください。

 そのことによって,授業で初めてその英語を聞く子どもたちの様子を観察し,ここで一度音声を止めてあげたほうがいいとか,この部分は2度かけてあげるべきだろうという判断が冷静にできることも大きな「予習」のメリットとなります。

 また教室で読み聞かせ教材として使いたい絵本などの音声がCDなどで市販されていたらそれらを使い練習するのも,先生の英語力アップに大きく寄与すると思われます。

2. 新学習指導要領に沿った「授業力」とは何か

 さて次に新学習指導要領の3つの柱に沿って,英語活動における小学校の先生の「授業力」とは何かを考えてみましょう。

(1) 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深める
 それぞれの先生方が創意工夫することによってたくさんの題材が得られるでしょう。子どもたちにとって一番身近で興味が持てる話題を,言語や文化の違いに注目しながら教案に取り入れることは,担任の先生ならではの腕の見せどころでもあります。外国からみえたお客さま,あるいはALTを教室に迎えたときなど,単に自己紹介にとどめるのではなく「好きな朝ごはんの話」,「子どものときどんな遊びをしていたか」など,あらかじめ話題を限ってお願いするようなことも,先生のアイディアとしてどんどん取り入れるようにしましょう。常に世界に向けてアンテナを張り,教材開発ができる力も,英語活動における「授業力」と呼べるのではないでしょうか。 

(2) 外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る
 子どもたちが積極的にコミュニケーションを図ろうとするのは,どのような場面においてでしょう。私たち大人でもそうですが,自分が何かを伝えたいときや相手のことをもっと知りたいという思いを抱いたときではないでしょうか。したがって,子どもたちにできるだけ身近な話題で,伝えたい思いを英語にすることを体験させること,その活動をプロデュースできる力が英語活動における「授業力」の重要な要素であるかと思います。

 ここで,最近私が見た授業の流れを1つご紹介します(単元はcanの導入)。

@ 先生が指を鳴らしたり,背中で右手と左手がつくかどうかを見せたりしながら,“Can you do this?” などと質問し,実際に子どもたちに同じ動きをさせてみて “Yes, I can?” “No, I can’t?” と答え方を提示しながら本当の答えを言わせる。

A “Can you swim?” と動作を付けて子どもたちに質問し,手を挙げさせ,“Yes, I can.” “No, I can’t.” と答えを言わせる。さらに質問を発展させ,“Can you swim 1 km?” “Can you snowboard?” “Can you ride a unicycle?” と,子どもたちが自分のことを思わず大声でみんなに伝えたくなるような質問を続ける。引き続いて,紹介したいセンテンスを提示しつつ,それぞれの本当の答えを言わせる。

B 提示したセンテンスのうち,担任の先生(あるいはALTやJTE)ができること,あるいは隣に座っているクラスメートができることをあらかじめ3つ予想して “Can you 〜?” を使った質問をさせてみる。3つのうちいくつ予想が当たったかをチェックする。

 私が見た授業では,子どもたちの「聞いてわかる力」や「実際に体を使って理解する力」を使って,子どもたちはとても積極的に自分の情報を英語で言ったり,友だちに聞いたりしていました。

 ここで小学校の先生方に必要とされるのは,流ちょうな「英語力」ではなく,新学習指導要領に則った目標を達成するために「適切な活動を選択」できる力です。この力を付けるためには,常に活動の目的を念頭に置きながらできるだけたくさんの授業実践を実際に見学し,また自身の授業も積極的に公開してコメントをもらうのが一番の近道ではないかと私は考えます。

(3) 外国語を通じて,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる
 「慣れ親しませる」といった目的を達成するためには,どういった形で紹介すれば一番興味を持って子どもが取り組んでくれるか,その方法を工夫するのも「授業力」の1つでしょう。音源を使う場合は,チャンツを使って繰り返す,歌を歌う,手を叩いてみる,全員で言う,男子と女子に分けて言う,列ごとに言う,聞こえた単語によって立ったり座ったりする,手遊びにしてみるなど,いろいろ試してみましょう。ここでの目的は,たくさん聞いてたくさん口に出すことによって「慣れ親しむ」ことであり,一人ひとりが言えることを到達点とするものではありません。

 また,ALTとティーム・ティーチングする機会があれば,担任の先生が英語で話す内容を子どもに聞かせるチャンスをたくさん作るようにしましょう。その場合,先に英語力のところで述べたような言い回しを使いながら,ぜひ担任の先生が子どもの理解を手助けしつつ,子どもたちの聞き続ける気持ちを盛り上げていきたいものです。

3.最後に

 一般的に小学校英語活動を行う場合,先生に一番必要な「授業力」が即「英語力」だと思われがちであり,そのことが,これから取り組もうという小学校の先生方の大きな不安を招いてしまうのではないかと思います。もちろん「英語力」は全く必要ない,とは言えませんが,まずは次の授業に必要なクラスルーム・イングリッシュをちゃんと予習してみる。それが終わったら,また次を考える。そこからのスタートです。

 そして,小学校英語活動において何よりも大切なことは,常に子どもたちと学びを共有し,英語を通して広がるコミュニケーションの世界を楽しむ先生方の姿勢であり,それこそが英語活動における「授業力」につながるものではないかと思います。

田縁 眞弓 (たぶち まゆみ)
立命館小学校英語科アドバイザー。立命館大学・京都ノートルダム女子大学講師,公立小学校英語活動指導アドバイザー。著書・執筆に『英語の「授業力」を高めるために―授業分析からの提言』(三省堂,高梨庸雄編,部分執筆),『We can! Phonics Workbook』(MacGraw-Hill Education,共著),『Boost! Integrated Skills Series』(Pearson Longman,シリーズ・エディター),『Hip Hip Hooray!』(Pearson Longman,シリーズ・エディター)など。

〜田縁眞弓先生の提言を受けて〜

1.はじめに
 田縁先生は,優れた授業を支える力量を「授業力」と表現し,その中身を分析し,具体例を添えてわかりやすく説明されています。田縁先生の提案されている「授業力」が向上するよう,「外国語活動」を教えられる先生は,日常的に努力を重ねてほしいと思います。「外国語活動」の必修化により,初めて英語を教えるという方も多くいらっしゃいますが,あわてず地道に「授業力」を磨いていきましょう。

 田縁先生のご提案に触れながら,私のコメントを述べることにいたします。

2.「英語力」について
 外国語活動の目標は,「コミュニケーション能力の素地」を養うこととされています。子どもたちには意味のある英語をたっぷり聞かせ,子どもたちが「大体意味がわかった。楽しい」と感ずるような授業が求められています。そのためには教師は英語を話すことが必要になりますが,英語が思うように使えないために不安を抱えている方もいらっしゃるかと思います。もちろん英語が話せれば,それで満足のいく授業ができるというわけではありませんが,英語を使う力も「授業力」の1つの重要な要素だと思います。この点についての田縁先生の分析とご提案は適切で,子どもたちへの指示や励まし,ALTとのコミュニケーションなどをスムーズに英語で行う秘訣等について,具体的に述べられています。アドバイスに従って日常的に授業実践を続ければ教師の授業力を支える「英語力」が確実に向上するものと期待されます。

 この他にもう1つ「英語力」について学んでほしいことがあります。それは,英語特有のリズムを習得することです。リズムが身に付くと,チャンツなどの指導にも役立ちますし,子どもたちへの英語の指示にも英語らしさが増し,次第に英語使用に自信が持てるようになると思います。教師自身が積極的に努力を重ね,次第に英語が上達していく姿こそ,子どもたちの積極的な態度を育てることに役立つでしょう。さまざまな表現や語彙を増やすだけでなく,英語のリズムの特徴を理解し,身に付けることを心がけてほしいと思います。

3.「異文化理解」や「ことばへの関心」について
 どうしたら子どもたちの異文化やことばに対する関心を高めることができるでしょう。田縁先生は貴重なアイディアを提案されています。それは,子どもたちにとって身近で,関心の高い話題や題材を日常的に蓄積することです。それには教師自身の「気づき(awareness)の力」が求められます。

 私が参観した授業から,子どもたちの「異文化理解」や「ことばへの関心」を高めるのに役立つ優れた例を挙げておきます。  

《「異文化理解」の例》
HRTがスコットランド出身のALTにお手玉の遊びを教えようとしたところ,ALTは5つも6つもお手玉を使い,子どもたちより上手に遊んでいました。子どもたちは,日本だけの遊びと思っていたものがスコットランドにもあることを知って驚いていました。さらに,子どもたちは,日本ではお手玉の中身に小豆を使うのに,スコットランドでは羊の骨を使うことを学びました。ALTによると,スコットランドでは,気候が厳しく土地が痩せているため,日本のように野菜や穀物を育てることができません。農家は牧草で大量の羊を育てています。羊は,食べ物としてだけでなく,衣類をはじめ生活のあらゆる面で使われています。ALTはこのような話を,写真や絵,地図を使って説明しました。子どもたちは環境と人々の生活との密接な関係に気づき,視野を広げる結果となりました。 

《「ことばへの関心」の例》
日本語では手足ともに同じ「指」ということばを使っていますが,英語では ‘finger’ と‘toe’ という別の単語を使うことを知り,子どもたちは驚いていました。また,日本語では,手の場合は「親指」,「人差し指」などということばを使って表現しますが,足については「人差し指」という表現は使わないことに気がつきました。さらに,英語では「人差し指」のことを forefingerとかindex fingerと呼び,「人をさす指」という発想はありません。それどころか指を使って人をさすことはタブーとされていることを子どもたちは学びました。このような異文化教材を使って体験的に学ぶ授業を続けることで,子どもたちは日米の文化の違いに気づき,自文化中心主義から次第に文化相対主義的な思考や行動のできる人間へと変容していくわけです。

4.指導法について
 田縁先生は,さまざまな活動を通して子どもたちが自然に英語に触れることによって,主体的に学んでいく授業の大切さを強調されています。文法的な規則や単語の意味や綴りを教え込んだり,文化の違いを説明したりすることばかりでは,教師は「授業力」があるとは言えないでしょう。文化の違いや,その背景にある生活環境の違い等について,子どもたちが自ら気づき思考を深めていくような英語の授業──そのような授業の進め方ができる力も教師の大切な「授業力」だと田縁先生は力説されています。

 最後に,子どもたちと共に学んでいこうとする教師の姿勢,文化やことばについて新しい発見を楽しもうとする姿勢──教育に対するこのような姿勢が「授業力」につながるのだ,と田縁先生は結んでいます。田縁先生が提案された「授業力」の幾つかの要素を日頃から念頭に置いて,焦らずこつこつと努力を重ねていきましょう。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

次回も,これまでたくさんの英語活動を経験されている先生に,担任の先生が身に付けておきたい力「授業力」について,お伺いしたいと思います。

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