小学校英語活動コラム

 第18回と第19回の2回にわたり,渡邉時夫先生に,『英語ノート』(文部科学省)と他教材との併用についてまとめていただきます。

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[第20回]教材選びのポイントについて

鷹巣雅英
(三重県小学校英語活動研究会 事務局代表)

1. はじめに−『英語ノート』とデジタル教材

 電子黒板(電子情報ボード)※1の導入で,デジタル版の『英語ノート』(文部科学省)を使えるようになった学校では,英語をはじめとした外国語の音源が確保できたことで,担任主導の授業が予想以上に進んでいます。私が教職員研修講座に講師として招かれたとき,「デジタル(教材)先生」※2と担任の先生がT-T(Team Teaching)を組むという考え方で実際に指導法(使用法)を提示すると,先生自身が驚き,大いに楽しまれます。

 私は,高学年の先生方だけでなく,全校の先生方に「先生の自習用」としてデジタル版の『英語ノート』(以下,『デジタル版英語ノート』)を使ってみるようにお願いしています。自分のパソコンにダウンロードし,毎日クリックして発音やチャンツを聞いたり,語彙や英語表現の設定を読み取ったりしてもらうのです。即実行してくださっています。なにしろ,日本の歴史初の小学校英語の必修化に取り組んでいるのですから,今は共通教材としての『英語ノート』の仕組みを読み解き,「新しい教育」にチャレンジする期間だと考えています。使ってもみないで批判は出来ません。

 私たちは,デジタル版教材が,視覚や聴覚を刺激して,児童の顔を上げさせ目を輝かせるツールであると,その良さを体感しつつあります。同時に,『デジタル版英語ノート』だけではコミュニケーションを図る活動は十分ではないということや,使い勝手の悪い内容もあることも分かってきました。そういう試行錯誤をしながら移行措置の期間を過ごしているのが現場の実態です。小学校外国語活動が持つ可能性や,予想以上に生き生き学ぶ児童に気付き,もう少し工夫したいと考える先生方が,『英語ノート』の活動の応用事例やトリビアに満ちた指導資料を熟読するようになりました。

2. 課題と教材選びのポイント

 新学習指導要領移行措置の2年目にしてようやく,無償配付教材の『英語ノート』・『指導資料』・『CD』・『デジタル版英語ノート』の意味と,その価値が吟味され始めたといえるでしょう。

 以下に,見えてきたいくつかの課題とそれに応じた教材選びのポイントを記します。

(1) チャンツの活用

 『英語ノート』にはチャンツが活用されています。チャンツは歌と異なり,先生方にも児童にも馴染みがないので,「苦手だ」,「やっていない」などの意見を聞きます。歌は,言葉とリズムとメロディの組み合わせで,一方チャンツは,言葉にリズムをつけたものです。長いセンテンスでも,口慣らしとしてチャンツを使うと案外言えるようになります。特に子どもには,リズムがあると記憶する力を助けるようです。

 『デジタル版英語ノート』は,音声とともにイラストがユーモラスに動くので,それにつられ,口を動かす児童も出てきます。まず児童に見せて,聞かせて,口慣らしさせてあげましょう。

 また『デジタル版英語ノート』のチャンツには,2段階の速さ(「ゆっくり」と「ふつう」)のものが用意されているので,児童の様子を見ながら,速さを選んで活動することができます。(ある学校では,音楽の堪能な先生が,オリジナルで速度変更可能なカラオケリズムボックスを作り,先生方で共有していました。)

=『デジタル版英語ノート』のチャンツの指導手順=

  1. まず,チャンツを通して聞かせます。「何と言っているのかな」「言えるかな」などと投げかけます。
  2. 次に,一時停止(ポーズボタンをクリック)して,チャンツを区切って復唱させます。
    ※先生は,一時停止のタイミングの練習が必要になります。
  3. 2 を何回か繰り返します。
  4. リズムなしで,英語(単語や文)で児童とのやり取りを繰り返します。
    ※これがねらいです。
  5. もう1回聞かせます。児童自身に「わかるようになっている」ことを気付かせます。
  6. 発展的な活動として,言葉(単語や表現)の入れ替えをさせたチャンツ活動をします。

 毎時,少しずつ取り組むことで,児童に「繰り返すうちに,言えないと思っていたことが言える」経験を増やしてあげます。児童は,繰り返しを「学び方」の1つとして体験することが大事で,先生は,気がついたら何度も繰り返していたというような工夫をする指導技術が大事になります。

(2) ALTの活躍の場の設定

 毎夏,三重県の国際室に招かれ,私は現場の先生方と共に,JETプログラム※3で新規着任したALT(Assistant Language Teacher)に,オリエンテーションの一環として,小学校での授業の模擬体験を,ワークショップ型で提案しています。「英語活動」ではなく,「外国語活動」であることは,デジタル版の『英語ノート1』Lesson 1「世界の『こんにちは』を知ろう」の紹介をすると,すぐに気付いてくれます。しかし,他の章に入ると,ALTによっては,「デジタル先生」とどう共存するのかと,いぶかる方もいます。

  多くの場合,ALTは各学校を巡回訪問しているので,児童や担任の先生の名前を覚えるのも困難な出会いが続きます。そんな時,ALTとのT-Tに「定番授業」があれば,ALTは自信を持って授業を行えるでしょう。ALTの活躍が『英語ノート』の内容を補うものであれば,さらに望ましいでしょう。ALTとのT-Tの機会に恵まれている学校でも,ALTが活躍できる「場面づくり」を設定したら,より効果的に活発な活動ができるようになるかと思います。

A. Show & Tell

 Show & Tellは,ALTの英語を,たっぷり聴くチャンスです。

 ALTの自己紹介で,名前を外国語で黒板に書いてもらうだけでも,児童にとっては新鮮に感じると思います。出身国の風景やくらしが写っている写真や,その国特有の服や道具などを用意してもらうといいでしょう。

 毎回3分ずつ,児童に直接話しかけて自由に話してもらう時間をALTに任せることで,ALTは工夫を楽しみ,事前に準備をしてきます。衣服・食べ物・家・行事・家族・動物など,話題は尽きません。ALTの話のあとは,担任の先生が「今日は何のお話だったのか」を確認し,児童が聞き取ったキーワードをつないであげ,児童と一緒になって類推していくことが大事です。

 担任の先生はALTとの打ち合わせの時間も少ないと思います。ALTがShow & Tellで取り扱うトピックの内容を,あらかじめキーワードでまとめられたメモでもらっておくとよいでしょう。

B. 絵本の読み聞かせとその発展

@ 絵本の読み聞かせ

 絵本の読み聞かせを発展させることによって,「聞く」,「繰り返す」,「覚える」,「音読する」ことができます。

 まずは,児童にALTの英語をゆったりと聞かせます。絵を見せ,擬音・擬声やジェスチャーで内容を補いながら読み進めます。担任の先生は,ページをめくる役として,ALTの英語をリピートして印象付ける役として,ALTとともに児童の前に立ちましょう。その際,児童の反応を見逃さないこと,児童の反応に応じて理解を促すこと,聞き手の場に退かないで指導者の場に踏みとどまることなどに注意を払いましょう。 

 絵本の指導には,絵本そのものの購入はもちろんですが,次のような教具があればさらに効果があがるかと思います。

 お話に登場する動物などのキャラクターをコピーして切り抜き,紙の台紙に貼ります。そして,その裏に板状のマグネットをつけると,黒板などに貼りつけられる絵カードとして使えます。また,絵本の各ページをコピーし,台紙に貼れば,紙芝居として使えます。それらをラミネート加工(表面に透明なフィルムを貼る処理)しておくといいでしょう。このように一度手間をかけて作成しておくと,学校で共有して長く使うことができます。

A 絵本の読み聞かせからゲームへ

 読み聞かせの後には,次の『英語ノート』にも頻出するゲームを通して,英語の単語や表現に慣れ親しませます。

 いろいろな動物が登場する絵本の場合,次のような活動になります。

 ○Memory Quiz
  ・How many animals did you see?
   *数当てクイズになります。数当ての自由発言後,
     みんなで,英語で1から数えてみることも楽しいです。
 ・What animals are there in this book?
   *マグネット付の動物の絵カードを提示するとよいでしょう。
     登場する動物の絵カードを黒板に貼っていきます。
     全て出揃うと次のゲームへ自然につなげます。

○Memory Game
 ・What is the first animal? How about the second?
    動物の絵カードの並べ替えを行います。

○Missing Game
 ・Close your eyes. (ジェスチャーで英語の意味を補いながら,動物の絵カードを1枚黒板からはずす) Open your eyes. What was missing?
   *最初は1枚,徐々に複数カードを抜いていきます(複数表現に留意する)。
     児童はカードの位置をすぐ覚えてしまいます。
     ときどき残ったカードの位置を変えてみましょう。
     すると児童は真剣になり,先生が確認するために順にカードを指さすだけで,
     児童は嬉々として,自発的に絵カードの単語の発音をします。
     先生方はきっとこのような様子に驚かれることでしょう。

※これらのゲームは,時間の有無によって,どこで止めても楽しむことができます。

B 音読へ

 ゲームを通して,英語の単語や表現に慣れ親しんだ児童は,ページをめくる担任の先生とともに絵本が読めるようになっています。絵本の作者の言葉のリズムや本来の英語の音を楽しみ,英語と絵本のストーリーを味わう時間となります。ALTや担任の先生が読んだ後に,続けて児童に音読をさせていくと,そのうち児童が音読をリードするようになります。そのことを心から褒めたり喜んだりする先生の姿を見た児童が,自信を持ったり,やる気を育んだりする場面を何度も見てきました。

 以上の@〜Bのプロセスは,担任の先生と地域人材とでも行うことができます。何回もやることで,児童は授業の展開がわかり,聞くことにもっと集中します。そして,自ら学ぶ姿勢が身に付きます。

 よく先生方から「どんな本を買ったらよいか」との質問を受けますが,かわいい動物などが登場し,短い文の繰り返しを楽しめる,エリック・カール(Eric Carle)※4の絵本から始めることをお勧めします。

3. おわりに

 『英語ノート2』のLesson 6「外来語を知ろう」では,自分の好きなフルーツパフェを作り,友達に紹介する活動があります。4年生の国語で学ぶ外来語についての学習を生かし,外来語の起源調べや世界の国調べを,総合的な学習の時間で行ってみたらいかがでしょうか。そこで調べたことを,『英語ノート1』Lesson 1「世界の『こんにちは』を知ろう」や,世界中の食べ物が出てくる『英語ノート1』Lesson 9「ランチ・メニューを作ろう」,『英語ノート2』Lesson 6「行ってみたい国を紹介しよう」などで,使えると思います。

 児童が興味・関心を示すものを見つけ,「これは英語で何と言うのかな」と考え始めたら,意欲を高める授業のタネや教材のヒントは身の回りにいくらでもあると気づくでしょう。そして,先生自身が外国語活動に対する学びを楽しまれるようになるでしょう。

 本コラムの第18回と第19回でも紹介している『KIDS CROWN アドバンストコース』(三省堂)の「Area Study」の名所・産物案内を,自分の町に置き換えてみるのもアイディアでしょう。鈴鹿市のある学校では,校区の地図を作り,それを使って『英語ノート2』のLesson 5「町案内をしよう」にチャレンジしていました。

 『英語ノート』は全国共通教材です。指導順変更も取捨選択も可能です。地域独自の,または,学級の今の児童の興味・関心に即したオリジナル教材に差し替えてやってみることにも,果敢にチャレンジされることを願っています。

※1 ボード上(板面)や大型モニターなどにコンピュータ画面を映し,その画面操作を付属のマーカーや指で行うことができる装置です。
※2 筆者の造語です。担任の先生が英語活動をする場合,音源の確保が重要となります。そのために,地域人材やALTなどとT-Tを組みます。しかし,それが難しい現実があります。「デジタル(教材)先生」とは,デジタル教材をT-Tの相手(先生=相棒)と想定して擬人化した名前です。効果的に使いこなせば,児童にとっては魅力的な「先生」の役割を果たします。
※3 「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略称。地方公共団体が総務省,外務省,文部科学省及び財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施されています。
※4 アメリカの絵本作家。『くまさん くまさん なにみてるの?』(原題:Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?)『はらぺこあおむし』(原題:The Very Hungry Caterpillar)など,数多くの作品があります。

鷹巣 雅英 (たかす まさえ)
三重県小学校英語活動研究会事務局代表。鈴鹿市内小学校英語アドバイザー。小学校英語教育学会(JES)三重県理事。近畿地区常任理事。元鈴鹿市内公立小学校教諭,元鈴鹿市立椿小学校講師。長年,学校現場で英語活動の実践に取り組み,三重県の小学校英語活動をリードしている。

次回は,渡邉時夫先生に,小学校外国語活動用の教材についてまとめていただきたいと思います。

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