小学校英語活動コラム

 第22回から3回にわたり,渡邉時夫先生に小学校外国語活動をどのように進めていけばよいのか,評価方法や実践結果などをまとめていただきました。今後のコラムでは,「コミュニケーション能力の素地」が目標どおりに達成された場合とは,どのような状態を意味するのかを,小学校の先生方に紹介していただく予定です。今回はその導入として,渡邉時夫先生に「小学校で外国語活動をしてきた生徒を受け入れる中学校の視点から」をご紹介します。

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[第25回]「コミュニケーション能力の素地」の実態について(1)―小学校で外国語活動をしてきた生徒を受け入れる中学校の視点から―

渡邉時夫 (信州大学名誉教授)

1.はじめに

 外国語活動の【目標】は,次の3つの観点に分けることができます。

 @ 言語や文化について体験的に理解を深める。
 A 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る。
 B 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる。

 これらの観点をおさえて適切に活動をしていれば,目標である「コミュニケーション能力の素地」を育成できることになっています。しかし,外国語活動を担当されている大多数の先生方を不安にさせているのは,「どの程度を目標とすればよいのか」という目標の『程度』だと思います。

 外国語活動は教科ではありませんので,中学校の学習指導要領とは違って,文部科学省の『解説書』にも,程度については明確な説明がありません。

 外国語活動の担当者同士や,小中の該当者同士が互いに指導の成果に関する情報を交換し合いながら目標として望ましい『程度』を明確化していくほかないと思います。

 今後のコラムで,「私が求めている素地の程度」という内容で,先生方のお考えを具体的に述べてほしいと思っており,今回と次回の2回で,長野県小諸市のA先生とB先生のそれぞれの授業(中学校入学時)を通して,小学校の実践成果を考察したいと思います。

2.小諸市(長野県)の外国語活動の実情について

 小諸市内には小学校が6校,中学校が2校あり,1つの中学校には3〜4校の小学校から子どもたちが入学してきます。ALTは各校で小学校専任が3名,中学校専任が2名の計5名で教えています。したがいまして,小学校の子どもたちは,年間35時間ALTと学級担任とのT-Tによる授業を受けていまおり,「英語の音声や基本的な英語表現」に親しんでいることになります。
教材については,6つの小学校のすべてが,小諸市教育委員会が発行している教材を使用しています。『英語ノート』(文部科学省)については,内容を参考にしてはいますが,授業ではほとんど利用していません。

3.中学校の4月の授業

 小諸市内の中学校の4月第2週目の授業参観から,英語の音声や基本的な表現への親しみと,コミュニケーションを図ろうとする積極性をみてみましょう。

@ A先生の授業(電子情報ボード[電子黒板]を使用)

(1) 挨拶は,韓国・朝鮮語,ドイツ語,フランス語,中国語,アラビア語,英語などで行いました。生徒は一斉に,それぞれの外国語で先生と挨拶を交わしました。先生が,黒板にアラビア語の挨拶をアラビア語ですらすらと書いたときには,生徒は「すごい!」という感嘆の叫びをあげました。続いて,好きな外国語を選ばせて,“Stand up and greet your friends in your foreign language.”と,先生は指示を与えました。

  そして活発なExchange of greetingsの後に,生徒が何語を選んだかを挙手で調べたところ,生徒は様々な言語で挨拶を交わしていたことが分かりました。

(2) 教科書で英語のgreetingを学習した後,先生は「クレヨンしんちゃん」(臼井儀人/双葉社)のイラストを使い,生徒たち一人ひとりをクレヨンしんちゃんと想定した上で,生徒と次のような対話を続けました。

T: What’ your name?” St: Crayon Shinchan.(クレヨンしんちゃん。)
T: Do you have a dog?” St: Yes, I do.
T: What is the dog’s name?” St: Shiro.(シロ。)
T: Do you like the dog? St: Yes, I do.

このあと,「どんな動物を飼っているか友だちに聞いてみよう」という先生の指示で,生徒たちは教室内を移動しながら,“Do you have an elephant(a cat, a lion, etc.)?” など,友だちとの会話を楽しんでいました。

(3) Alphabetの学習では,生徒たちは教科書の活字を指差ししながら大声で発声したり,体を使ってAlphabetの文字を描いたりしていました。これは小学校段階で体全体を使って学ぶTPRを実践してきた成果の表れだと思います。

A B先生の授業
 “I’m fine[sleepy, hungry, cold].” などの挨拶の交換をした後,“I’m 〜.” は,実は,“I am 〜.” を縮小したものであることをSentence cardで確認し,「『I’m ___ .』の___の部分にはどんな表現が来るだろうか」と尋ねたところ,下記のように生徒の中から次々と答えが飛び出し,先生と生徒とのinteractionが続きました。

 ――生徒の一人が “Name.” と答える。先生は,驚いた表情を示しながら「名前のことだね」と言って,I’m Ken. と板書。先生は「女子の場合も同じですね」と言いながら,“I’m Kumi.” を加えた。次に先生が “27.” と板書すると,「あっ! 年齢だ」という声が上がる。すかさず先生は,“I’m twenty-seven.” と言い,生徒に “How old are you?” と尋ねる。多くの生徒が挙手し,“Twelve.” と答える。さらに生徒から “From.” という答えが出て,先生はびっくりする。「職業」という答えも飛び出し,先生は,“I’m[I am] from America.” と “I’m[I am] a teacher.” を付け加える。用意していたゴルフの石川遼選手の写真を見せ,石川選手になったつもりで,pair で “I’m 〜” を使って自己紹介をさせる。

 4月の第2週目に,このような授業がスムーズにできる様子を見て,「素地」があればこそ,という英語教育の質的な変化を感じ取りました。「土作り」ができているからこそ,「種を蒔く」ことができ,その「芽が育っていく姿」を実感できた授業でした。

4.おわりに

 中学校の4月初めの頃の授業を通して,外国語活動の目標の成果と,その程度について簡単に考察してみました。同時に,小中の連携という視点から,@TPR(Total Physical Response)などのように体を使った活動を通して学ぶこと,A実際に友だちと情報や気持ち・考えを伝え合うこと,B電子情報ボードなどのICT(Information and Communication Technology)機器を活用すること,C単なる口真似でなく,考えて発信することなど,外国語活動が目標達成のために活用している指導方法についてもその重要性が確認できたと思います。

  次回は,少し角度を変えて,築きたい「素地の程度」について触れたいと思います。

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