小学校英語活動コラム

 第10回のテーマは前回に続き,外国語活動を行う際に担任の先生が身に付けておきたい「授業力」について,岐阜県不破郡垂井町立宮代小学校の河合優佳先生にお考えをまとめていただきました。

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[第10回]身に付けておきたい「授業力」──教師の心意気と授業構築のポイント

河合 優佳(岐阜県不破郡垂井町立宮代小学校)

1.小学校英語の本質

(1) 小学校英語のねらいについて
 これまで9年間,小学校英語の教育活動の創造と授業改善を通して実感した英語活動の教育的価値は「異文化の新たな発見と,人とつながることができた喜びの感動体験によって育まれる人間教育にある」ということである。楽しそうに笑い,意気揚々と会話することがねらいではない。また,英語を流暢に話すことがねらいでもない。小学校英語(外国語活動)のねらいは,「英語」という言葉を手段として人とつながり,自己の成長と自信を育むことである。そして,文字に頼ることなく「英語らしい音」の響きや言葉のつながりを体で感じながら,英語を味わうところにある。

 小学校英語は中学校英語とはねらいが異なる教育活動である。しかし,将来子どもたちにとって必要となるかもしれない英語のコミュニケーション能力の基礎を育み,自分の能力を発揮するために,自分の意思で自己選択できるための基礎を築く役割をもっていることは同じである。小学校英語は中学校英語の土台となり,言葉を介して人と関わり合うことで自己改革していくため,これからの未来に胸を躍らせ自信をもって一歩を踏み出せるための人間教育の出発点である。

小学校英語のねらい・・・「英語」で人とつながる力を養うこと
中学校英語のねらい・・・「英語」を言葉として使う能力を養うこと


図1 小学校教育と英語教育の接点(概念図)/拡大して表示(PDFファイル)

(2) 小学校教育と英語教育について
 小学校教育は各教科それぞれに身に付けたい力とねらいがあり,どの学びにおいても「できた・分かった」という成就感の積み重ねが自信へとつながっていく。図1は,私が考える小学校教育と英語教育の接点を表した概念図である。

 英語活動は言葉の教育であり,母語の国語教育とも密接に関わっている。外国語を扱うことで母語の特徴を改めて見つめ直したり,外国語という自由にならない手段で意思伝達することで伝え合うことの大切さや難しさを再認識できたりする。「発見」と「喜び」は言葉によってもたらされる英語活動の特徴であり,他教科にはない「感動体験」がここにある。

2.小学校英語の素地力

(1) コミュニケーション能力の素地について
 新学習指導要領の小学校外国語活動の目標に「・・・(中略)・・・,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケ―ション能力の素地を養う」とある。コミュニケーション能力の素地(素地力)とは何か。

  英語が好きではないと答えた児童の多くは「何を言っているか分からないから」を理由に挙げている。しかし,この「分からなさ」が素地力の鍵であり,小学校英語の教育価値を創る。「分からなさ」を自分で乗り越えるための力を身に付けることは中学校英語の基盤を造る。コミュニケーション活動をくり返し体験することで,「分からなさ」のなかでもやりとりが実現する感覚に気づき,意思伝達(聞くこと・話すこと)のコツを体得する。一語一語の音が聞きとれなくても,自分の耳に残った音や理解できた意味をつないで,相手の言おうとしていることが大まかに分かれば,コミュニケーションは成立するということに気づいていくのである。これこそが「慣れ親しんで」身に付ける「聞くこと・話すことの能力」──素地力である。

(2) 感動体験と「楽力(がくりょく)
 ここで重要なことは,小学校英語の授業でくり返されるコミュニケーション活動は「感動体験」でなければならないことである。伝わった,理解できた,発見したという達成感がなければ自信にならない。自分ならできる,やってみよう,楽しもうと思う力(私はこれを「楽力」と定義する)が必要である。誰しも分からないこと,苦手なことには前向きにはなれない。しかし1つの達成感が大きな自信を生むのである。


図2 楽力(概念図)/拡大して表示(PDFファイル)

【楽力について】
  自己肯定感の高まりがもてるようなコミュニケーションの場と環境の保障は必須である(図2)。体得して身に付けた「英語に親しむ力」は,形として見えることは少ない。感動体験の中で育まれ,力となって蓄積されていく。体験そのものが力となる。「実践的なコミュニケーション活動を通して」と一言で言っても,そのやりとりの意が単に言葉を渡し合うだけのもの,やりとりだけが浮いてしまうような体験では意味がない。

 体験は,最初はゲーム性の高いもので存分にやりとりを楽しむことから始め,それから「自分に自信」「他者への感謝」「他教科への学びの還元」といった,生きる力,「楽力」につながる要素を取り入れていく。このような段階的な体験ができるのは,小学校教育のなかにある英語活動だからこそである。小学校英語の他教科では担えない教育活動の意味がここにある。そして,児童の実態をきめ細やかに把握することができ,他教科との関わりを含めて,小学校教育全体を見渡す眼をもって感動体験を創造することができるのは,小学校教師のみである。

3.教師の心意気 〜授業づくりへの心構え〜

 感動体験できる授業を構築するために,次に教師の心意気を5つ示す。

(1) 学習集団のトップリーダーになる
 教え込もう,話させようとしない。教師自ら殻を破って子どもたちと共に楽しもう,学ぼうとする。外国語という自由にならない言語で必死に気持ちを表現しようとしている教師の姿が子どもたちの勇気になる。自分の限界「綱わたり状態」を思い切り楽しんでみよう!

(2) All Englishに挑戦する
 一単位時間の授業を,簡単な英語(クラスルーム・イングリッシュ等)で進めてみる。他教科ではどうしても言葉(説明)が多くなる教師の悲しいさがを乗り越えるチャンスである。あいさつ,進行,ほめ言葉など,授業づくりに効果的な表現を中心に,その気になって生き生きとやりとりして(演じて)みよう!

(3) ほめ言葉満載の教室づくりをする
 ほめ言葉をたくさん扱えると教室が一気に活気づく。英語が飛び交い,笑顔があふれる教室に大変身。ほめ言葉も多彩である。“Good job!” “Excellent!” “Perfect!” “Super!” “Wonderful!” “Great!” “You did it!” さらに励ましながら “You can do it!” これらの表現はアクティビティのなかで,互いの良さを評価し合う場面でどんどん使っていくことができる。自分の気にいった表現で自分の言葉で讃え合う。また,“Really?” “Pardon?” “Thank you.” など,相手の思いに反応する表現で,必ず言葉のキャッチボールを成立させるようにする。仲間のがんばりを認め,励まし,自分の活躍にわくわくしながらコミュニケーションを楽しむ。今日の子どもたちの姿に惚れぼれしたという日には, “I’m proud of you.” と心をこめて一言。


図3 発達段階に応じた「聞く活動」と授業パターン/拡大して表示(PDFファイル)

(4) 聞く活動を大切にする
 素地力を体得するためには「分からなさに慣れさせる」ことが重要であることは前述した通りである。CDの音源をフルに活用する,ALTとの打ち合わせや学年の先生方と協力してトピックの内容を工夫するなど,聞かせる英語をあの手この手で駆使してみよう。子どもたちの驚きの表情,納得のうなずきを想像しながら取り組むと力が湧く。

 図3に,「分からなさに慣れさせる」ための低・中・高学年の発達段階に応じた「聞く活動」,そして授業パターンを紹介する。


(5) コミュニケーションの場の環境をつくる
  環境は人をつくる。教室の環境,子どもたち自身の手づくりカード,教師作成の絵カードなど,手間が少々かかっても教材づくりは重要である。授業を陰ながら支えてくれる力である。また,授業に学級担任のみではなく,ALTやボランティアの教師がついてくれるなど2人,3人の体制で臨めるときには,教師の立ち位置にも配慮したい。グループで子どもたちが活動しているときには教師がトライアングルの形をつくって子どもたちを囲むように立つ。子どもたち全員の前に立つのは1人が原則で,活動ごとに中心となる教師を決める。あいさつでは学級担任が,スキットではALTと担任が,後半の活動のコメントではALTからなど,目的に合わせて役割分担する。教師それぞれのカラーで子どもたちを魅了したい。

左【6年「将来の夢」自己評価・スピーチカード】
右【ALTオリジナルのほめ言葉カード】
図4 環境づくりの例

4.授業構築のポイント

 授業構築の例として,【第6学年 My Dream 〜将来の夢を紹介しよう〜】を取り上げて紹介する。本題材は「人間教育につながる活動プランの創造」をテーマに『英語ノート 2』(文部科学省)の教材をアレンジしたものである。

○話題
  将来の夢
○場面
  理由を含めて将来の夢についてスピーチを行う。
○表現
  What do you want to be? I want to be a 〜.
○ねらい
  自分の将来について,キャリア教育の理念と関わらせて考え,クラスの仲間と共に夢を分かち合うコミュニケーション活動を設定する。本活動を通して,将来自分が人生に目標をもって力強く生きていける自分像を描きながら,希望をもっていろいろなことに挑戦していくことができる自分づくりを目指す。英語活動が及ぼす教育効果として,子どもたちの人間教育につながる,メッセージ性をもった授業構築を意図した。
○授業構築のポイント
 @ 付けたい力の明確化…教師のメッセージと子どもたちの願いの共有
 A 子どもたちの実態把握と担任,ALTとの連携…授業構築の基盤
 B 題材の創造…資料,環境の開発と題材が生きる展開
 C 価値のある評価…子どもたちに還元される評価の内容,場,方法
 特にBの題材の創造は,教師の願いを具体化できる開発の楽しみがある。一例として授業導入にあたる「歌(詩)」を取り上げる。本題材では金子みすゞの詩「わたしと小鳥とすずと」の朗読に挑戦した。英訳は簡単な英語で子どもたちが親しみやすい表現になるようにALTに依頼した。以下がその英訳詩である。

A Bird, A bell, and Me

I can open my arms.
But I can’t fly in the sky.
Birds can fly.
But they can’t run fast like I do.

I can move my body.
But I can’t make pretty music.
Bells can sing.
But they can’t sing songs like I do.

Here are the birds, the bells, and me.
They are all wonderful.

〔訳:Carlene Nex〕

 一人ひとりが自分に誇りをもって胸を張って生きてほしいという教師の願いと,タイアップできる詩として選択した。授業では,詩の朗読担当の子どもが前に出て,ジェスチャーをつけながら全員でリピートしたり,一斉読みをしたりしながら,気持ちを高めていった。

○自己評価の分析による成果

【素地力をあらわす児童のコメント例】
「英語はジェスチャーで表しやすいし,言葉のリズムで現在の気持ちが分かる」

 言葉のリズムで相手の言いたいことや内容を感じとることは,聞く活動を繰り返すことで,英語の音・抑揚に耳が慣れ,音と音が表す意味を全体から理解することができている証拠であり,聞くことの素地にあたる。

【人間力をあらわす児童のコメント例】
「聞いている人の気持ちを考えて,その人の気持ちになって話すことができるようになった。思った以上に人のことを考えることができ,こんなに人のことを考えることができるんだと,自分の良さを発見した」

 相手の気持ちを考えながら話す,話している人の気持ちを支えながら聞く。相手とのやりとりが,心地よい空間のなかでできるように場を創る力,相手の身になって「話す・聞く」心構えがあるからこそ「人とつながる喜び」が実感できる。これが将来にわたって生きて働く言葉の力,人間力につながる。

5.最後に教師力を磨く

 小学校英語を推進していく教師にとって必要となる力を私は次のように考える。

●理解力・・・児童の実態をきめ細かく理解する力
●創造力・・・実態分析と活動内容をリンクさせ,「感動体験」を創造する力
●運営力・・・児童と共に,「学ぶ人像」の手本となって英語活動を運営していく力
●協働力・・・ねらいを達成するために学年で,学校間で,小中学校が協働して授業構築していく力

 学級担任が中心となって進めることに,小学校における英語活動の意味がある。他教科での子どもたちの姿を熟知し,目の前の子どもたちにどんな力が必要とされているのかを理解しているからこそ,子どもたちのがんばりに涙する。感動する。ぜひとも英語活動にしかなし得ない感動体験を,教師のアイディアで,情熱で創り上げ,共に汗して1時間の授業を終えたい。教師力に磨きをかけ,自分だからこそできる授業づくりへ邁進!!

河合 優佳 (かわい ゆか)
岐阜県不破郡垂井町立宮代小学校教諭。平成12年より4年間大垣市立中川小学校に勤務する。のちに現在の勤務校に赴任。平成19年から2年間岐阜大学大学院カリキュラム開発専修科にて研修する。学位論文題目は「『中学校英語』と『小学校英語』を結ぶコミュニケーション能力の育成−第2言語習得研究からの検証−」。

〜河合優佳先生の提言を受けて〜

1.はじめに
 2005年の秋に,河合優佳先生が大垣市立中川小学校でKIDS CROWN (standard course; 三省堂)を教材にし,学級担任お一人で進めている授業(4年生)を参観したことがあります。河合先生は英語の免許状は有していないと聞いていましたが,指導書付属のウォール・チャート(掛け図)とCDを活用し,英語を巧みに活用しながら楽しい授業をされていました。野菜や果物が沢山並ぶウォール・チャートでタッチングゲームをするなどの活動を通して,英語に親しませていました。「英語を巧みに活用して」と言いましたが,英語をペラペラと流暢に使って,という意味ではありません。“Good.” “Excellent.” “You did a good job.” “Next, let’s listen to the CD.” などを使いながら進めていましたので,授業全体がすっかり英語の雰囲気になっていて,「これぞモデルにしても良い授業」と思いました。先生の英語による指示に従って活動するように指名された友だちに対して,“You can do it!” という励ましの言葉が他の子どもから自然に出てきたり,“You did a good job.” という先生に対して,即座に “Thank you.” という反応があるなど,子どもが英語を手段として自然に使っていました。

 その河合先生が,基本的な「授業力」をどう考えておられるか,興味をもって拝読いたしました。「外国語活動」の担当者が授業力の基礎として習得すべき内容が分かりやすく分析されています。

2.目指すべき「授業力」
 英語の発音や運用力に自信がない,英語でゲームをさせる技術がない,卒業までに,どの程度の英単語を覚えさせたらよいか,などで頭を悩ませている教員が多いのではないでしょうか。しかし,河合先生の提案を読むと,授業のイメージが一新されると思います。私の考えも多少入れながら,目指すべき授業力をまとめてみましょう。

(1) 目指すべき授業内容について
 次の3点を大切にした授業ができるかどうか。これらが授業力評価の基準だと思います。

  1. 異文化(とことば)について様々な発見をさせる(異文化といっても必ずしも外国文化だけを意味しない。知らなかった自文化や友だちどうしの違いに気づいたりすることも含む)。
  2. 人とつながることができたという「感動体験」を豊かにする。
  3. 自由にならない英語を手段として使うことによって,「考えや気持ちを伝え合う」ことの難しさと大切さを再認識させる。

(2) コミュニケーション力の素地としての英語力
 英語の会話力を高め,英語を流暢に話すことがねらいではありません。体をまるごと使って,英語の助けを借りながら人と関わることの楽しさを体験する。そして,多くの単語の意味や正確な発音の習得というよりは,英語を聞いて,文脈や場面や非言語的なヒントを総合して相手の意思や気持ちを理解していく過程―音源を活用しつつ,このような学習過程を大切にし,工夫する力こそが,コミュニケーションの素地としての英語力だと思います。

(3) 心得
 子どもたちと共に学ぼうとする情熱と向上心,そして,「楽力」を忘れないでほしいと思います。また,教材発掘や活用法や蓄積など同僚・ALTと協働する力も大切です。

渡邉時夫(清泉女学院大学)

※読者の皆様からコメントやたくさんの経験談などを期待しています。

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