小学校英語活動コラム

 第13回は,小学校英語外国語(英語)活動の研修について,山梨県笛吹市立境川小学校の堀田誠先生にお考えをまとめていただきました。

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[第13回]小学校現場における教員研修 −小学校教員に自信をもたせるような研修を!−

堀田誠 (山梨県笛吹市立境川小学校)

1. はじめに

 小学校外国語活動において,小学校教員に求められる能力とは何なのでしょうか。また,その能力を育成するために,現場ではどのような研修をしていくことが必要なのでしょうか。本稿では,筆者自身が実践を始めた当時に感じた不安をもとに,小学校の校内研修で扱うべき内容とその方法について自身の考えを述べてみたいと思います。

2. 小学校教員の現状

 Peck (2001) *1 は,児童たちを対象にしたESL(English as a Second Language)/ EFL(English as a Foreign Language)の指導者として成功するためには,@ 児童を直感的にとらえる能力A 英語に関する知識B 言語指導に関する様々な技術を扱った経験,の3つを有していることが大切であると言っています。

 @について,小学校教員は,授業中の児童たちが示す仕草や表情から,学習に対して意欲的かどうか,どのような気持ちで授業に臨んでいるのかについて,的確に把握する力をもっています。また,児童たちの実態を踏まえて,どのような学習スタイルが効果的であるのかについてもよく理解していると言えるでしょう。しかし,Aに関してはどうでしょう。私自身の経験を振り返ってみても,英語活動の授業を始めた頃は,自分自身の英語力に不安がいっぱいでした。同じような不安から英語の指導に自信がもてない教員が多くいるように感じられます。また,Bについて,小学校教員は,児童の実態に合わせて,日本語による発話の難易度を変えて指示を出したり,語りかけたりすることを日常的に行っています。

 つまり,小学校教員は,日本語による授業技術に関しては豊富な知識と経験をもった授業の専門家であるけれども,英語によるティーチャートークの例を始めとして,外国語(英語)の指導技術に関して「充分な知識と経験をもった授業の専門家である」とは言えない現状にあると思います。

3. 研修内容とその方法

 2に述べた小学校教員の現状を考えると,小学校外国語活動に関する校内研修では,(a)英語を正しく発音できる力(b)わかりやすい英語で語りかける力を育成し,(c)言語そのものの指導技術に関する知識と経験を増やす研修を,重点的に取り扱う必要があると考えます。

 まず,(a)を育成するためには,研修において英語母語話者の指導者を確保することが必要です。そのために,ALTの力を借りることが良いと思います。各学校に配属されているALT,その学校に配属されていない場合は,その地域の中学校などに配属されているALT,また,各都道府県の教育委員会や教員研修センターに配属されているALTを講師として招聘するという方法があります。その人たちに教わりながら,rとl,sとthの違いや英語の母音など,教員自身がまず聞き分ける訓練をすること,加えて,それらを調音できるように訓練を行うようにすることが求められます。こうした研修を経て,教員自身が正しく発音しようとする意識をもつようになることが重要です。

 次に,(b)を育成するためには,渡邉 (2003, 2009)*2, 3 によるMERRIER Approach(メリアー・アプローチ)について研修を深めることが効果的です。MERRIER Approachを利用すれば,クラスルームイングリッシュを英語だけで児童に理解させることも可能です。例えば,“Put your desks together. (机を寄せなさい)”というクラスルームイングリッシュを理解させるとき,MERRIER ApproachのMime / Modelを利用し,教員が動作を伴ってそれを発話すれば,児童はその英語表現の意味に気付きます。学習には,学習者の気付きが不可欠です。自らの気付きによって,英語表現の習得が円滑に行われ,外国語(英語)学習に対する意欲も喚起されるようになります。私は,これまで小学校現場においてMERRIER Approachの実践を繰り返してきました。児童は,話される英語表現の意味に自ら気付き,理解できるようになっていきました。自らの力で気付き,英語が理解できるようになった児童たちの嬉しそうな表情を忘れることができません。MERRIER Approachに関する研修を行うことは,教員の英語による発話力を向上させるために有効な方法の1つであると思います。

 最後に,(c)を育成するためには,校内研修において,多くの授業研究を行うことが必要です。特に,各都道府県で行われている中核教員研修会に参加した教員が率先して,授業を公開したり,高学年における外国語活動の授業研究が積極的に行われるよう研修担当者が計画を立案したりすることが大切であると思います。校内の教員全員が,授業を直接観察し,外国語(英語)活動に関する良いイメージを膨らませることがとても大切だと思います。

4.おわりに

 今,小学校の教員に不足しているのは,「指導する自信」だと思います。校内研修では,小学校教員自身を英語嫌いにさせずに,英語を苦手に感じている小学校教員に対して,指導にあたっての不安を解消させることが大切であると思います。他教科と同様に自信をもって児童の前に立ち,意欲的に外国語(英語)活動の授業づくりができる教員を育てる研修が今現場に求められているでしょう。学級担任は,学習者のモデルであると同時に適格な指導者であることが前提です。Peck (2001) が示した3つを有する教員が増えれば,新しい学習指導要領の趣旨を実現するための様々な授業プランが全国各地からたくさん 聞かれるようになるのではないでしょうか。

<引用文献>
*1 Peck, S. (2001). Developing Children’s Listening and Speaking in ESL. In Celce-Murcia, M (Ed.), Teaching English as a Second or Foreign Language (pp.139-149). Boston: Heinle & Heinle, a division of Thomson Learning, Inc.
*2 渡邉時夫 (2003) 「第T部 第1章 1. MERRIER Approach −理論と応用−」渡邉時夫監修 酒井英樹・塩川春彦・浦野研 編, 『英語が使える日本人の育成 MERRIER Approachのすすめ』6-17頁 東京:三省堂.
*3 渡邉時夫 (2009) 「わかりやすい英語を話す工夫 −MERRIER Approachの紹介−」『小学校英語活動コラム』 第8回 (2009年4月13日)


堀田 誠 (ほった まこと)
山梨県笛吹市立境川小学校教諭。現在,小学3年生を担任する。小学校英語教育学会(JES)都道府県理事。小学生の英単語認知に関心をもって教育実践と研究を行っている。

次回は,渡邉時夫先生に研修のありかたについて,お考えをまとめていただきます。

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