小学校英語活動コラム

 第16回から,小学校外国語活動用の教材をテーマに連載してきました。今回は,渡邉時夫先生に,小学校外国語活動の目標にあった教材について,まとめていただきます。

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[第21回]小学校外国語活動の目標にあった教材作成と選び方

渡邉時夫
(清泉女学院大学)

1. はじめに

 第17回で,筆者が行ったアンケート調査の結果を報告いたしました。このアンケート調査により,『英語ノート』(文部科学省)の活用率が高いことと,先生方がご不満に感じている面も分かってきました。そこで第1819回のコラムで,英語ノートを補う教材例として『KIDS CROWN』(三省堂)を取り上げ,その活用法について紹介いたしました。また第20回では,鷹巣先生(三重県小学校英語活動研究会 事務局代表)に,教育現場の視点から教材の活用法についてご提案をいただきました。今回は,教材についてのまとめとして,「外国語活動」の目標達成のための「教材作成と選び方の視点」について述べたいと思います。

2. 目標の再確認

 小学校新学習指導要領の外国語活動の「解説」によると,目標は次の3つの柱から成り立っています。これら3つの目標を達成できれば,最終的な目標である「コミュニケーション能力の素地の育成」が達成できることになります。

@ 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深める。
A 外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る。
B 外国語を通じて,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる。

 3つの目標すべてに,「外国語を通じて」行われることが明記されています。すなわち,小学校外国語活動は,「外国語(基本的には英語)を通じて」の部分を最も大切にし,授業することになるでしょう。

 また,学習指導要領に「…外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う」と,書かれています。「英語(外国語の音声や基本的な表現)に慣れ親しむ」ということは,「単に特定の英文を暗唱したり,単語をたくさん覚えたりすることではない」と思います。相手の話す英語を聞いて,場面の情況や写真・地図・絵・実物などを援用して,メッセージを次第に理解できるようになることが,目標の最も大切な部分であると思っています。

 目標に合った教材に触れさせることによって,子どもたちは,英語を通して考え,文化や言葉の様々な面に気づき,基本的な英語を使って,積極的に自己表現するように成長できるでしょう。そのためには,教材は次の3つの要素を含んでいることが大切になります。

(1) インプットには,子どもたちに理解可能な英語が多量に含まれていること。
(2) インプットは,できるだけ場面と結び付け,子どもたちに意味が推測できる内容であること。
(3) インプットにおいて,言語材料がスパイラルに登場するように工夫されていること。

3. 教材作成や教材選びの視点について

(1) 理解可能なリスニング・インプットを増やすCD・DVDの作成
 ALTと相談して,「異文化」や「ことばの勉強の大切さ」などを内容としたCD(音声教材)やDVD(視聴覚教材)を作成してみましょう。

 教材を作成する場合,ターゲットとしたい語彙や表現を自分で選んだり,繰り返し登場させたりすることができる,季節にあったテーマや子どもの興味・関心に合っているテーマを選べる,など利点が大きいですね。

 クリスマスが近づいた頃,私自身が作成したり,作成に関わった作品を,いくつか紹介します。

@ カナダ人のALTは,「クリスマスプレゼントは靴下の中に入れ,そして子どもの枕元に置く」という日本の習慣を知り,驚いたそうです。そのALTの出身地では,クリスマスプレゼントは,靴下の中には入れずに,そのままクリスマスツリーの下に置くそうです。

《スクリプト》
Christmas is coming very soon. Do you like Christmas presents? What presents do you like? My son likes fishing. So I will give him books about fishing. Do you like fishing? When my son goes to bed, I will put the books under the Christmas tree. Does your father put your presents under the Christmas tree, too? In Japan, fathers put their presents in the socks. They put the presents near your bed. Is that right? But in Canada, fathers put the presents under the Christmas tree. What presents do you like? We put a bottle of milk near the presents. Do you know why?

《準備》
絵「プレゼントが下に置かれたクリスマスツリー」「靴下」「釣りをしている人」「リボンのついた本」

《留意点》
・“Do you like 〜?”,“What do you like?”などの表現を多用する。
・『英語ノート 1』の自己紹介のレッスンと関係づけて活用するとよい。
・ミルクを置く理由を考えさせるとよい。

A オーストラリア人のALTが,「雪のない夏のオーストラリアに,サンタクロースはどうやって来るか」という問いかけをした授業は,すばらしい内容でした。「そり」で現れるサンタに馴染んでいた日本の子どもたちは,初めて地域によって異なるクリスマスに気づくと同時に,オーストラリア(南半球)と日本(北半球)の季節や生活の違いに気づきました。そして,「沖縄のサンタは?」と質問した子どもも出てきました。

《スクリプト》
(地球儀または世界地図を見せながら)This is Japan, and this is Australia. It is cold here in Japan,(寒さで震えるジェスチャー)but it is very hot in Australia, my country.(暑くて,汗をぬぐうジェスチャー) We have much snow in Japan.(たくさんの雪を表すジェスチャー)There is no snow in Australia. In Japan, Santa comes in sleigh. ‘Sleigh’ means ‘sori’ in Japanese. Now, I have a question. How does Santa come to Australia? He cannot use ‘sori.’ How does he come to Australia? Look at this.(サーフボードに乗っているサンタの絵を見せて)Yes. He comes to Australia by surfboard.

《準備》
地球儀,世界地図(日本とオーストラリアの位置関係が分かる地図),絵「サーフボードに乗っているサンタ」

《留意点》
・クリスマスの前に行う。
・地球儀や世界地図を使い,南半球にあるオーストラリアと北半球にある日本とで,季節が異なることを説明する。

(2) 場面と結び付けたインプット
 「コミュニケーション能力の素地」の大切な要素は,場面(文脈)と場面を結び付けて意味を推測できる力です。英文を一つひとつ積み上げていく,という指導方法ではなく,特定の場面の中で英語を聞いて,意味を推測できる力を育成したいものです。このようなリスニングを「Top-down的リスニング」と呼んでいます。このような力が蓄積されると,やがて英語を発信する力も生まれてきます。つまり,英語使用の「コミュニケーション能力の素地」が形成されていきます。そのような力を育成するために,イラストを見ながら英語を聞いて,意味を推測させる教材を活用してほしいと思います。

 例えば,イラストを見せながら,次のチャンツをやってみましょう。説明しなくても,子どもたちは状況(内容)を理解することができるでしょう。

My Friend Likes the Maple-tree
You See the Leaf in the Center
The Leaf is Red and Beautiful
My Friend Comes from Canada

《Question》 Where does my friend come from?

 カナダの国旗を見ないでチャンツを聞いても,意味の分からない子どもが多いと思います。しかし,国旗を見せると,たちまちチャンツの意味が理解できるでしょう。場面や文脈の大切さがよく分かります。

  ご紹介したチャンツは,私の自作のものです。ALTの協力があれば,このようなチャンツをたくさん作ることができると思います。

(3) 言語材料をスパイラルに登場させる工夫
 『英語ノート』の補助教材として,市販のテキストを一部活用することもお勧めしたいと思います。選択の視点としては,「テーマや題材」を主眼とする場合と,語彙や表現など「言語面」を主眼とする場合が考えられます。

@ テーマ・題材を主眼とする場合
  色(colors)・教科(school subjects)・料理(cooking)など,『英語ノート』と関連のあるテーマ・題材を扱っている教材を探します。テーマが同じであれば,取り上げられる語彙や表現も似通ってきますが,教材によっては,それらの扱い方(場面やアクティビティ)は異なってくるかと思います。異なった場面の中で,既に触れた言語材料を繰り返し提示できるという長所があります。また,単なる暗記ではなく,異なったアクティビティで使いながら身につけていけるという点で素晴らしいと思います。

A 語彙や表現など言語面を主眼とする場合……
  “What’s this?”,“I like soccer.”や“What time is it?”などの言語材料をターゲットに,場面や出来事ごとで扱われている教材を探します。“I like 〜.”を例にとると,スーパーマーケットの場面を扱ったもの,スポーツショップでの出来事を扱ったもの,動物園を舞台にしたものなど,多様な教材があります。あるいは市販の教材に頼らずに,ALTの協力が得られれば,自分で創作するのも良いと思います。

4. おわりに

 しっかりした「コミュニケーション能力の素地」を築く(目標を達成する)ための教材選びや作成の視点について述べてきました。スペースの関係で十分述べることができませんでしたが,子どもたちが積極的に活動できるための教材選び,という視点も重視していただきたいと思います。

 目標と表裏一体をなすものは,評価です。評価についても,基本的な考え方や具体的な実施方法などについて検討したいと思います。

 

次回から数回にわたり,渡邉時夫先生に,小学校外国語活動の評価についてまとめていただきます。

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