小学校英語活動コラム

 第14回と第15回の2回に渡り,渡邉時夫先生に研修について,お考えをまとめていただきます。

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[第14回]研修について―その1 英語活動のための教員研修の受け方 ―英語が苦手な教員のための研修のポイント―

渡邉時夫 (清泉女学院大学)

1. はじめに

 「外国語活動」(以下,「英語活動」)の移行措置が始まってから半年が経ちました。分かりやすい英語を上手に使っている先生に指導されている子どもたちは,確実にコミュニケーションの素地ができていると思います。我が国の英語教育を考える時,HRTが徐々に英語力を培っていかない限り,明るい展望は開けないと思います。よもや「英語活動」を担当するとは思ってもみなかった先生方が大多数を占めていることはよく分かります。しかし,我が国の英語教育の大切な部分を背負うことになった以上,しっかり研修を積んでその責任を果たしていただきたいと思います。HRTが自分の英語力に自信を持てるようになることが,「英語活動」成功への第一歩です。このことについては,前回の堀田誠先生も「小学校教員に自信を持たせる研修を!」というテーマでお書きになっています。

 今回は,英語の使用について経験が浅く,自分にとってはどのような研修が必要なのか,真剣に考えておられる先生方を想定して,筆者の考えを述べてみたいと思います。

2. 小学校教員の現状と提案

(1) 英語のリズムを心得ておきましょう
 /r/ と/l/の違いとか,/θ/と/d/の正しい発音の習得も大切ですが,まずHRTに研修していただきたいことは,英語のリズムです。英語の歌を歌う時も,チャンツを活用する時も,英語のリズムを心得ていれば,自信を持って指導することができます。何よりも英語活動を楽しむことができると思います。

 日本語はpitch(ピッチ:音の高低)が大切な言語であるのに対して,英語はstress(ストレス:音の強弱)が大切な言葉であることなどを,子どもたちに実感させることもできます。メトロノームを使ったり,バックグラウンドミュージック(BGM)を選んで流したりしながら,上手にチャンツを子どもたちと楽しんでいる授業をこれまで沢山拝見いたしました(英語のリズムの具体的な指導法について―本コラム第12回参照)。

 先生方は教育委員会などの研修で,母音・子音・イントネーションなど様々な研修を受けることと思います。これらをいっぺんに習得することは大変です。その中で第一に注目してほしいのは英語のリズムのマスターです。『英語ノート』のCD以外にも優れた音声教材が沢山あります。音声教材を学校で共同購入するか,個人で好みのものを選ぶなり,楽しい音声教材を手元において親しみましょう。

(2) まずはESP的に英語の運用に慣れましょう
@ ESP 的な英語の運用とは
 一つひとつの英文は簡単でも,それらを教室で英語を臨機応変に使うということは意外に難しいものです。ALTなどを講師に招いた研修会では,漠然と英会話的な練習を行っている情景をよくみかけます。そのような研修では,教室でタイミングよく英文を組み立てて子どもたちとのコミュニケーションを図るところまではなかなかできません。そこで,英語力アップの方法について,初歩の段階では,ESP的な方法を取り入れるということを提案したいと思います。

 ESPは,English for Specific Purposesをイニシャルで表したものです。あらゆる事柄を英語で表現することを目指すのではなく,自分に必要な目的に限って英語で自己表現する力を磨く方法です。

 長野市で1998年に冬季オリンピックが開催された折に,タクシーの乗務員が取り組んだ英語学習がその一例です。乗務員は,Excuse me, where are you going? / It will take about fifteen minutes. / Here is your change. / That is the Shinshu University. など,自分の仕事にとって必要な表現を習得しました。

 この考え方に倣って,例えばゲームでは,ゲームの説明から始めて,モデルの提示,ゲームの実行,勝者への賛辞,まとめまでを1ユニットとして,できるだけ英語で授業を実践してみることです。

 歌を教える時,チャンツを楽しむ時,色々なゲームを導入する時など,ユニットを増やしていったらいかがでしょうか。漠然と英語を使おうとするよりも,意識的に英語使用にアプローチし,ユニットを増やしていけば,時とともに,英語の使い手として成長します。何よりも子どもたちにとっては分かる英語に触れる機会が多くなると思います。

A 実践例の紹介 ― 長野市立大豆島小学校の授業より
 長野市内の小学校には,ALTがほとんど配属されておりません。『英語ノート』だけでは,英語のインプットが不十分と思います。先生が自らの英語を意味ある場面で発信しなければなりません。そこで,市内の大豆島小学校では,意識的にESPの要領を導入して,先生方に場面に応じた英文の一組ひと組を創作する練習を重ねてきました。リズムの練習とあいまって先生方の英語使用の自信が高まってきました。

 ここで,先日10月6日(火)に行われた大豆島小学校による研究授業の1つを紹介します。

 その授業は,食べ物(food)を題材にDo you like cheese? ― Yes, I do. / No, I don’t. に慣れ親しむ授業でした。

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T: Now, we’re going to learn about food. What’s ‘food’ in Japanese? Anyone? Raise your hand, please.

S: (大勢挙手)食べ物です。

T: That’s right. ‘Food’ is ‘食べ物’ in Japanese. Now, please watch me. I’m going to show you a card of food. Tell me the name of the food.(フラッシュカード風に絵を見せて子どもたちに食べ物の名前を英語で当てさせていく。)
That’s right. Good job. It’s cheese.(7種類の食べ物の絵を黒板に貼る。)

T: Now, I’m going to tell you a name of food. Please tell me the number of the picture. Are you ready?(meat, fish, tomatoなどと聞いていく。)

T: This time, I’ll say a number. Please tell me the name of the food. Did you get it?(One, three, sevenなどと言いながら,速さを加減しながら進める。)

T: (頃合をみて,バックグラウンドミュージックのビートに合わせて7つの単語をチャンツ風に練習した後に)Well, I’m going to give you a card. (配布した後に)There are seven pictures of food on your card. Please ask your friends, “Do you like meat? Do you like carrots?”(「Yes」と「No」の欄があります。Your friend says, “Yes.” Then, ask your friend, “Please put your name here.”とお願いして「Yes」の欄に名前を書いてもらって下さい。) Are you ready?(子どもたちは,大きな声で,Yes.)

T: Ask many friends, but first, ask the friend next to you. Then walk around the room and ask other friends. Did you get it? Please raise your hand.(理解したことを必ず確認する。確認は日本語で行ってもよい。)

T: (5分後に)Time is up. Please go back to your seat. (サインを得た友だちの数を確認し)Today’s champion is Xxxxxx-san. Let’s give her a big hand!

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 このように,まとまった英語使用を1つのユニットと考え,少しずつユニットの数を増やしていきます。授業者は,大変スムーズに英語を使っていましたので,時々使用した日本語も気になりませんでした。英語のリズムに習熟しつつ,英語の運用力を意識して一歩一歩進んでほしいと思います。そして,堀田先生もお勧めになっていましたMERRIER Approach も大変役に立つと思います(本コラム第8回参照)。

3. おわりに

 「英語活動」では,@子どもたちにとって理解可能な英語のインプットをできるだけ沢山与えること,A発話させる前に,英語をたっぷり聞かせ,英語の音に慣れ親しませてから発話させること,B英語のメッセージの意味を考えながら,聞く態度を身につけさせることを大切にしましょう。

次回は,渡邉時夫先生に「ことばや文化に気づかせる」授業をするための研修について,お考えをまとめていただきます。

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