小学校英語活動コラム

 今回は,前回に続き,渡邉時夫先生の「コミュニケーション能力の素地」の実態(その2)を紹介します。

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[第26回]「コミュニケーション能力の素地」の実態について(2)―中学校の視点から―

渡邉時夫 (信州大学名誉教授)

1.はじめに

 外国語活動の【目標】は,次の3つの観点に分けることができます。これらの観点をおさえて適切に活動をしていれば,目標である「コミュニケーション能力の素地」を育成できることになっています。

@ 言語や文化について体験的に理解を深める。
A 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る。
B 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませる。

 前回に続き,今回は@の言語と文化について考えてみたいと思います。

2.「言語についての理解の深まり」について

(1) 音声面について
 長野県小諸市の中学1年の授業を参観しました。生徒たちは,camera, teacher, cold, mother, fruit, right, light, animal など,下線を施した部分の発音を含め,英語の母音と子音の基本的な発音をある程度習得できているだけでなく,日本語とは違って英語の発音は強弱が基本になっていることを,感覚的に捉えているように思えました。また,chocolate, station, orange , banana, America, Korea, Australia など,カタカナ語とは異なるリズムも身に付けており,対話でも,“How are you?” に対し,“Fine. How are you?” のように,you にアクセントを置いて話している生徒も目立ちました。

 これは,小学校外国語活動で,ALTやJTE(あるいはCDやDVDの教材)によるチャンツや歌などを通して,英語を繰り返し聞き,発話することによって習得されたと考えられます。まさに生徒たちが,小学校で英語の音声を親しんできた成果の表れだと思います。

 授業では,フォニックスと絡め,[f] [v] の音声指導をしていました。小学校における素地に基づいて,中学校では基本を大切に指導する,という望ましい関係を見る思いがしました。また,先生は授業の中で ‘France’ を取り上げ,日本人は [furansu]のように [u] を入れて発音しがちであることも付け加えておられましたが,このような新たな学びが素地と基礎の違いとして生徒に浸透していくものと思います。

(2) 単語や文法の気づきについて
《単語について》
 小諸市の小学校で,“What’s this?” をテーマにした授業を参観しました。シルエットクイズやコイントスゲームなどを通して,子どもたちが,“apple, eraser, fish, cap, book, pencil, …” と,次々発話する単語を,先生は次のように2つのグループに分けながら板書していきました。先生からの細かい説明はありませんでしたが,子どもたちには何となく分類の基準が分かっているようでした。

a fish an apple
cap orange
book eraser

 また,「靴」の意味で子どもたちが「シューズ」と発話した折に,先生は,“A shoe.” と言って,fish やcap のグループに加えました。子どもたちは不審な表情でしたが,先生は説明しませんでした。子どもたちのこのような「気づき」は,中学校で学習する際に大いに役立つと思います。

《文法について》
 小学校で,“I’m 〜.” や “What’s 〜?” に親しんでいるので,I’m ⇔ I am,What’s ⇔ What isの関係についても,中学校で学びやすくなっていると思います。また,「You’re は何の短縮形?」とたずねれば,You areが想起できるかも知れません。そのような創造性に富んだ学びができれば素晴らしいですね。

3.「文化についての理解の深まり」について

 私がこれまで参観した中学1年の授業では,小学校で取り組んでいるような「文化」について深めたり,広げたりしている様子に出合うことはほとんどありませんでした。ですが,実際に非常に多くの小学校では,学習指導要領にある「言語や文化について体験的に理解を深める」ことに,真剣に取り組んでいるように思います。

 小諸市の小学校では,ALTの出身国の生活習慣などを日本のそれと対照させながら,文化やことばの不思議さや面白さに気付かせるために,「ALT Time」と名づけて,授業の終わりの5〜10分を当てています。

 最近の授業では,用意したオーストラリアの映像を見せながら,ALTは次のように英語で説明していました。

 “I’m from Sydney, Australia. It’s summer in Australia. It’s cold in Komoro now, but it is very hot in Australia. Look at the people on TV. They are walking in the street in swimming pants. Look at the people. They are eating something. What are they eating? They are potato chips.”

 映像の助けを借りて,子どもたちは,@オーストラリアと日本の季節が逆であること,Aオーストラリアでは,町の中を水着だけで平気で歩いていること,B食べながら町の中を歩いていること,などに気づき,ALTに自分たちの印象を述べていました。その際,ALTは,オーストラリアでは “potato chips” と呼んでいる食べものをアメリカでは“French fries” と呼び,日本では「フライドポテト」と呼んでいることなどに触れ,物と名前との関係について,しばし考えさせていました。

 このように,分かりやすく工夫した英語 ― MERRIER Approachの工夫(第8回)の説明を通して,外国と日本やALTの出身地と子どもたちの町の相違点や類似点に何となく気付かせていく授業は,外国語活動の目標に照らして大変魅力あるものと考えます。

 平成24年度の各社の中学校の英語教科書を拝見すると,多くの1年生の教科書は,小学校外国語活動で扱った表現の復習,アルファベットと単語の読み書きから始まり,夏休み頃までは,小学校外国語活動で触れた文法を学ぶようになっています。しかし,多くの教科書は文化面を軽く扱う傾向があり,この点,外国語活動とのギャップが感じられます。中学校でも,ALTと触れあう(話す)時間を増やし,小学校外国語活動で培った文化に対する素地を発展させ,国際感覚の基礎をしっかり築いてほしいと思います。

4.おわりに

 前回と今回で,中学校入学までに期待される「英語コミュニケーション」の素地の程度について,4月初めの中学校1年生の授業参観を資料に,考察を試みました。

 次回以降は,小学校と中学校の先生それぞれに,小学校卒業までに学習させたい素地について述べていただく予定です。

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